「滅めっ相そうもない!――わ、わたくしめがあなた様を置き去りになど、決してそんな――」
「俺様に向かって嘘うそをつくな!」別の声が歯は噛がみしながら言った。
「俺様にはお見通しだぞ。ワームテール! 貴様は俺様のところに戻ったことを後こう悔かいしているな。貴様は俺様を見ると反へ吐どが出でるのだろう。おまえは俺様を見るたびにたじろぐし、俺様に触ふれるときも身み震ぶるいしているだろう……」
「違います! わたくしめはあなた様に献けん身しん的てきに――」
「貴様の献身は臆病おくびょう以外の何物でもない。どこかほかに行くところがあったら、貴様はここにはおるまい。数時間ごとに食事をせねばならぬのに、おまえがいなければ俺様は生き延のびることはできまい? 誰がナギニのエキスを絞しぼるというのだ!」
「しかし、ご主人様。前よりずっとお元気におなりでは――」
「嘘をつくな」別の声が低く唸うなった。「元気になってなどいるものか。二、三日も放ほう置ちされれば、おまえの不ぶ器き用ような世話で何とか取り戻したわずかな力もすぐ失ってしまうわ――しっ、黙だまれ!」
アワアワと言葉にもならない声を出していたワームテールは、すぐに黙った。数秒間、フランクの耳には火の弾はじける音しか聞こえなかった。それからまた先ほどの声が話した。シューッシューッと息が漏もれるような囁ささやき声だ。
「あの小こ僧ぞうを使うには、おまえにももう話したように、俺様なりの理由がある。ほかのやつは使わぬ。十三年も待った。あと数ヵ月が何だというのだ。あの小僧の周辺が守られている件だが、俺様の計画はうまく行くはずだ。あとは、ワームテール、おまえがわずかな勇気を持てばよい――ヴォルデモート卿きょうの極限きょくげんの怒りに触ふれたくなければ、勇気を振り絞しぼるがよい――」
「ご主人様、お言葉を返すようですが!」ワームテールの声はいまや怯おびえきっていた。
「この旅の間中ずっと、わたくしめは頭の中でこの計画を考え抜きました――ご主人様、バーサ・ジョーキンズが消えたことは早そう晩ばん気づかれてしまいます。もしこのまま実行し、もしわたくしめが死の呪のろいをかければ――」
「もし?」囁き声が言った。「もし? ワームテール、おまえがこの計画どおり実行すれば、魔ま法ほう省しょうはほかの誰が消えようと決して気づきはせぬ。おまえはそっと、下へ手たに騒がずにやればよい。俺おれ様さま自身が手を下せればよいものを、いまのこのありさまでは……。さあ、ワームテール。あと一人邪じゃ魔ま者ものを消せば、ハリー・ポッターへの道は一直線だ。おまえに一人でやれとは言わぬ。そのときまでには忠実ちゅうじつなる下しも僕べが再び我々に加わるであろう――」
「わたくしめも忠実な下僕でございます」ワームテールの声が微かすかにすねていた。