「記憶を消せばよかっただと? しかし、『忘ぼう却きゃく術じゅつ』は強力な魔法使いなら破ることができる。俺おれ様さまがあの女を尋じん問もんしたときのようにな。せっかく聞き出だした情報を利用しなければ、ワームテールよ、それこそあの死んだ女の『記憶』に対して失礼であろうが」
外の廊ろう下かで、フランクは突然、杖つえを握り締めた手が汗でつるつる滑すべるのを感じた。冷たい声の主は女を一人殺した。それを後こう悔かいのかけらもなく話している――楽しむように。危険人物だ――狂っている。それにまだ殺すつもりだ――誰か知らないが、ハリー・ポッターとかいう子供が――危ない――。
何をすべきか、フランクにはわかっていた。警察に知らせる時があるとするなら、いまだ。いましかない。こっそり屋や敷しきを抜け出し、まっすぐ村の公衆電話のところに行くのだ……しかし、またしても冷たい声がして、フランクはその場に凍こおりついたようになって全身を耳にした。
「もう一度呪のろいを……わが忠実ちゅうじつなる下しも僕べはホグワーツに……ワームテールよ、ハリー・ポッターはもはや我が手の内にある。決定したことだ。議ぎ論ろんの余地はない。――しっ、静かに……あの音はナギニらしい……」
男の声が変わった。フランクがいままで聞いたことのないような音を立てはじめた。息を吸い込むことなしに、シュー、シュー、シャーッ、シャーッと息を吐はいている。フランクは男が引きつけの発ほっ作さか何かを起こしたのかと思った。
次にフランクが聞いたのは、背はい後ごの暗い通路で何かが蠢うごめく音だった。振り返ったとたん、フランクは恐怖で金かな縛しばりになった。