「ごめんね。僕の知っている人じゃないかと思って」ハリーがしもべ妖精に言った。
「でも、旦那さま、あたしもドビーをご存知です!」甲高い声が答えた。
貴き賓ひん席せきの照明がとくに明るいわけではないのに、眩まぶしそうに顔を覆っている。
「あたしはウィンキーでございます。旦那さま。――あなたさまは――」
焦こげ茶色の目がハリーの傷きず痕あとをとらえたとたん、小皿くらいに大きく見開かれた。
「あなたさまは、まぎれもなくハリー・ポッターさま!」
「うん、そうだよ」
「ドビーが、あなたさまのことをいつもお噂うわさしてます!」
ウィンキーは尊敬で打ち震えながら、ほんの少し両手を下にずらした。
「ドビーはどうしてる? 自由になって元気にやってる?」ハリーが聞いた。
「ああ、旦那さま」ウィンキーは首を振った。
「ああ、それがでございます。けっして失礼を申し上げるつもりはございませんが、あなたさまがドビーを自由になさったのは、ドビーのためになったのかどうか、あたしは自信をお持ちになれません」
「どうして?」ハリーは不意を衝つかれた。
「ドビーに何かあったの?」
「ドビーは自由で頭がおかしくなったのでございます。旦那さま」
ウィンキーが悲しげに言った。
「身分不ふ相そう応おうの高たか望のぞみでございます、旦那さま。勤つとめ口が見つからないのでございます」
「どうしてなの?」
ウィンキーは声を半オクターブ落として囁ささやいた。
「仕事にお手当てをいただこうとしているのでございます」
「お手当て?」ハリーはポカンとした。
「だって――なぜ給料をもらっちゃいけないの?」
ウィンキーがそんなこと考えるだに恐ろしいという顔で少し指を閉じたので、また顔半分が隠れてしまった。