「屋や敷しきしもべはお手当てなどいただかないのでございます!」
ウィンキーは押し殺したようなキーキー声で言った。
「ダメ、ダメ、ダメ。あたしはドビーにおっしゃいました。ドビー、どこかよいご家庭を探して落ち着きなさいって、そうおっしゃいました。旦那さま、ドビーはのぼせて、思い上がっているのでございます。屋敷しもべ妖よう精せいにふさわしくないのでございます。ドビー、あなたがそんなふうに浮かれていらっしゃったら、しまいには、ただの小鬼ゴブリンみたいに、『魔ま法ほう生せい物ぶつ規き制せい管かん理り部ぶ』に引っ張られることになっても知らないからって、あたし、そうおっしゃったのでございます」
「でも、ドビーは、もう、少しぐらい楽しい思いをしてもいいんじゃないかな」ハリーが言った。
「ハリー・ポッターさま、屋敷しもべは楽しんではいけないのでございます」
ウィンキーは顔を覆おおった手の下で、きっぱりと言った。
「屋敷しもべは、言いつけられたことをするのでございます。あたしは、ハリー・ポッターさま、高いところがまったくお好きではないのでございますが――」
ウィンキーはボックス席の前ぜん端たんをちらりと見てゴクッと生なま唾つばを飲んだ。
「――でも、ご主人さまがこの貴き賓ひん席せきに行けとおっしゃいましたので、あたしはいらっしゃいましたのでございます」
「君が高いところが好きじゃないと知ってるのに、どうしてご主人様は君をここによこしたの?」ハリーは眉まゆをひそめた。
「ご主人さまは――ご主人さまは自分の席をあたしに取らせたのです。ハリー・ポッターさま、ご主人さまはとてもお忙いそがしいのでございます」
ウィンキーは隣となりの空席のほうに頭を傾かしげた。
「ウィンキーは、ハリー・ポッターさま、ご主人さまのテントにお戻りになりたいのでございます。でも、ウィンキーは言いつけられたことをするのでございます。ウィンキーはよい屋敷しもべでございますから」
ウィンキーはボックス席の前端をもう一度恐こわ々ごわ見て、それからまた完全に手で目を覆ってしまった。ハリーはみんなのほうを見た。