「ご存ぞん知じ、ハリー・ポッターですよ」
ファッジは、金の縁ふち取どりをした豪ごう華かな黒ビロードのローブを着たブルガリアの大臣に大声で話しかけたが、大臣は言葉がまったくわからない様子だった。
「ハリー・ポッターですぞ……ほら、ほら、ご存知でしょうが。誰だか……『例のあの人』から生き残った男の子ですよ……まさか、知ってるでしょうね――」
ブルガリアの大臣は突然ハリーの額ひたいの傷きず痕あとに気づき、それを指差しながら、何やら興こう奮ふんしてワァワァ喚わめき出した。
「なかなか通じないものだ」ファッジがうんざりしたようにハリーに言った。
「私はどうも言葉は苦手だ。こうなると、バーティ・クラウチが必要だ。ああ、クラウチのしもべ妖よう精せいが席を取っているな……いや、なかなかやるものだわい。ブルガリアの連中がよってたかって、よい席を全部せしめようとしているし……ああ、ルシウスのご到着とうちゃくだ!」
ハリー、ロン、ハーマイオニーは急いで振り返った。後列のちょうどウィーズリーおじさんの真後ろが三席空あいていて、そこに向かって席せき伝づたいに歩いてくるのは、ほかならぬしもべ妖精ドビーの昔の主人――ルシウス・マルフォイとその息子ドラコ、それに女性が一人――ハリーはドラコの母親だろうと思った。
ホグワーツへのはじめての旅からずっと、ハリーとドラコは敵かたき同士だった。顎あごの尖とがった青白い顔にプラチナ・ブロンドの髪かみのドラコは、父親に瓜うり二ふたつだった。母親もブロンドで、背が高くほっそりしている。「なんていやな臭いなんでしょう」という表情さえしていなかったら、この母親は美人なのにと思わせた。