「地面に衝突しょうとつするわ!」隣となりでハーマイオニーが悲ひ鳴めいを上げた。
半分当たっていた――ビクトール・クラムは最後の一秒で辛かろうじてグイッと箒ほうきを引き上げ、くるくると螺ら旋せんを描きながら飛び去った。ところがリンチは、ドスッという鈍にぶい音をスタジアム中に響ひびかせ、地面に衝突した。アイルランド側の席から大きな呻うめき声が上がった。
「ばか者!」ウィーズリーおじさんが呻いた。「クラムはフェイントをかけたのに!」
「タイムです!」バグマンが声を張り上げた。
「エイダン・リンチの様子を見るため、専門の魔ま法ほう医いが駆かけつけています!」
「大丈夫だよ。衝突しただけだから!」
真っ青さおになってボックス席の手すりから身を乗り出しているジニーに、チャーリーが慰なぐさめるように言った。
「もちろん、それがクラムの狙ねらいだけど……」
ハリーは急いで「再生」と「一場面ごと」のボタンを押し、スピード・ダイヤルを回し、再び万眼鏡を覗のぞき込んだ。
ハリーは、クラムとリンチがダイブするところを、スローモーションで見た。レンズを横断して紫むらさきに輝かがやく文字が現れた。「ウロンスキー・フェイント――シーカーを引っかける危き険けん技わざ」と読める。間かん一いっ髪ぱつでダイブから上昇に転ずるとき、全神経を集中させ、クラムの顔が歪ゆがむのが見えた。一方リンチはペシャンコになっていた。ハリーはやっとわかった――クラムはスニッチを見つけたのではない。ただリンチについてこさせたかっただけなのだ。こんなふうに飛ぶ人を、ハリーはいままで見たことがなかった。クラムはまるで箒など使っていないかのように飛ぶ。自由自在に軽かる々がると、まるで無重力で何の支えもなく空中を飛んでいるかのようだ。ハリーは万まん眼がん鏡きょうを元に戻し、クラムに焦点しょうてんを合わせた。いまは、リンチのはるか上空を輪わを描いて飛んでいる。リンチは魔法医に魔ま法ほう薬やくを何杯も飲まされて、蘇そ生せいしつつあった。ハリーはさらにクラムの顔をアップにした。クラムの暗い目が、三十メートル下のグラウンドを隅すみ々ずみまで走っている。リンチが蘇生するまでの時間を利用して、邪じゃ魔まされることなくスニッチを探しているのだ。