なりそうどころか、そうなってしまった。ブルガリアのビーター、ボルコフとボルチャノフが、モスタファーの両脇りょうわきに着地し、身振り手振りでレプラコーンのほうを指差し、激はげしく抗こう議ぎしはじめた。レプラコーンはいまや上じょう機き嫌げんで「ヒー、ヒー、ヒー」の文字になっていた。モスタファーはブルガリアの抗議に取り合わず、人差し指を何度も空中に突き上げていた。飛行態たい勢せいに戻るように言っているに違いない。二人が拒きょ否ひすると、モスタファーはホイッスルを短く二度吹いた。
「アイルランドにペナルティ・スロー二つ!」
バグマンが叫さけんだ。ブルガリアの応おう援えん団だんが怒って喚わめいた。
「さあ、ボルコフ、ボルチャノフは箒ほうきに乗ったほうがよいようです……よーし……乗りました……そして、トロイがクアッフルを手にしました……」
試合はいまや、これまで見たことがないほど凶暴きょうぼうになってきた。両チームのビーターとも、情け容よう赦しゃなしの動きだ。ボルコフ、ボルチャノフはとくに、棍こん棒ぼうをメチャメチャに振り回し、ブラッジャーに当たろうが選手に当たろうが見み境さかいなしだった。ディミトロフがクアッフルを持ったモランめがけて体当たりし、彼女は危あやうく箒から突き落とされそうになった。
「反則だ!」
アイルランドの応援団が、緑の波がうねるように次々と立ち上がり、いっせいに叫んだ。
「反則!」魔法で拡大されたルード・バグマンの声が鳴り響いた。
「ディミトロフがモランを吹ふっ飛ばしました――わざとぶつかるように飛びました――これはまたペナルティを取らないといけません――よーし、ホイッスルです!」