「そうかぁ。ピーブズめ、何か根に持っているな、と思ったよ」ロンは恨めしそうに言った。「厨房で、何やったの?」
「ああ、いつものとおりです」「ほとんど首なしニック」は肩をすくめた。
「何もかもひっくり返しての大暴れ。鍋なべは投げるし、釜かまは投げるし。厨房はスープの海。屋や敷しきしもべ妖よう精せいがものも言えないほど怖こわがって――」
ガチャン。ハーマイオニーが金のゴブレットをひっくり返した。かぼちゃジュースがテーブルクロスにじわーっと広がり、白いクロスにオレンジ色の筋すじが長々と延のびていったが、ハーマイオニーは気にも止めない。
「屋敷しもべ妖精が、ここにもいるって言うの?」恐怖に打ちのめされたように、ハーマイオニーは「ほとんど首なしニック」を見つめた。「このホグワーツに?」
「左さ様よう」ハーマイオニーの反応に驚いたように、ニックが答えた。「イギリス中のどの屋敷よりも大勢いるでしょうな。百人以上」
「私、一人も見たことがないわ!」
「そう、日中はめったに厨房を離れることはないのですよ」ニックが言った。
「夜になると、出てきて掃除をしたり……火の始末をしたり……つまり、姿を見られないようにするのですよ……いい屋敷しもべの証しょう拠こでしょうが? 存在を気づかれないのは」
ハーマイオニーはニックをじっと見た。
「でも、お給料はもらってるわよね? お休みももらってるわね? それに――病欠とか、年金とかいろいろも?」
「ほとんど首なしニック」が笑い出した。あんまり高笑いしたので、ひだ襟えりがずれ、真しん珠じゅ色いろの薄うすい皮一枚でかろうじてつながっている首が、ポロリと落ちてぶら下がった。
「病欠に、年金?」ニックは首を肩の上に押し戻し、ひだ襟でもう一度固定しながら言った。「屋や敷しきしもべは病欠や年金を望んでいません!」