午後の始し業ぎょうのベルが鳴り、ハリーとロンは北きた塔とうに向かった。北塔の急な螺ら旋せん階かい段だんを上り詰めたところに銀色の梯はし子ごがあり、天井の円形の撥はね戸どへと続いていた。その向こうがトレローニー先生の棲すみついている部屋だった。
梯子を上り、部屋に入ると、暖だん炉ろから立ち昇るあの甘ったるい匂においが、ムッと鼻を突いた。いつものように、カーテンは締め切られている。円形の部屋は、スカーフやショールで覆おおった無数のランプから出る赤い光で、ぼんやりと照らされていた。そこかしこに置かれた布張り椅子や円形クッションには、もうほかの生徒が座っていた。ハリーとロンはその間を縫ぬって歩き、一いっ緒しょに小さな丸テーブルに着いた。
「こんにちは」
ハリーのすぐ後ろで突然霧のかかったような声がして、ハリーは飛び上がった。細い体に巨大なメガネが、顔に不ふ釣つり合あいなほど目を大きく見せている。トレローニー先生だ。ハリーを見るときに必ず見せる悲ひ劇げき的てきな目つきで、ハリーを見下ろしていた。いつものように、ごってりと身につけたビーズやチェーン、腕うで輪わが、暖だん炉ろの火を受けてキラキラしている。
「坊ぼうや、何か心配してるわね」先生が哀かなしげに言った。
「あたくしの心しん眼がんは、あなたの平気を装よそおった顔の奥にある、悩なやめる魂たましいを見み透とうしていますのよ。お気の毒に、あなたの悩なやみ事は根こん拠きょのないものではないのです。あたくしには、あなたの行く手に困こん難なんが見えますわ。嗚あ呼あ……ほんとうに大変な……あなたの恐れていることは、かわいそうに、必ず起こるでしょう……しかも、おそらく、あなたの思っているより早く……」