「ハリー!」ロンが囁いた。
「えっ?」ハリーはキョロキョロあたりを見回した。クラス中がハリーを見つめていた。ハリーはきちんと座り直した。暑あつかったし、自分だけの考えに没ぼっ頭とうしてうとうとしていたのだ。
「坊や、あたくしが申し上げましたのはね、あなたが、間違いなく、土星サターンの不吉な支配の下もとで生まれた、ということですのよ」ハリーがトレローニー先生の言葉に聞き惚ほれていなかったのが明白なので、先生の声は微かすかにイライラしていた。
「何の下に――ですか?」ハリーが聞いた。
「土星ですわ――不吉な惑わく星せい、土星サターン!」
この宣せん告こくでもハリーに止とどめを刺させないので、トレローニー先生の声のイライラがあからさまになっていた。
「あなたの生まれたとき、間違いなく土星が天空の支し配はい宮きゅうに入っていたと、あたくし、そう申し上げていましたの……あなたの黒い髪かみ……貧弱な体つき……幼おさなくして悲ひ劇げき的てきな喪そう失しつ……あたくし、間違っていないと思いますが、ねえ、あなた、真冬に生まれたでしょう?」
「いいえ」ハリーが言った。「僕、七月生まれです」
ロンは、笑いをごまかすのに慌あわててゲホゲホ咳せきをした。
三十分後、みんなはそれぞれ複ふく雑ざつな円形チャートを渡され、自分の生まれたときの惑星の位置を書き込む作業をしていた。年代表を参照したり、角度の計算をするばかりの、おもしろくない作業だった。
「僕、海かい王おう星せいが二つもあるよ」しばらくして、ハリーが、自分の羊よう皮ひ紙しを見て顔をしかめながら言った。「そんなはずないよね?」
「あぁぁぁぁー」ロンがトレローニー先生の謎なぞめいた囁ささやきを口まねした。「海王星が二つ空に現れるとき。ハリー、それはメガネをかけた小こ人びとが生まれる確かな印ですわ……」