「よろしい……ほかの呪文を何か知っている者はいるか?」
ハリーは周りを見回した。みんなの顔から、「三番目のクモはどうなるのだろう」と考えているのが読み取れた。三度目の挙きょ手しゅをしたハーマイオニーの手が、少し震ふるえていた。
「何かね?」ムーディがハーマイオニーを見ながら聞いた。
「『アバダ ケダブラ』」ハーマイオニーが囁ささやくように言った。
何人かが不安げにハーマイオニーのほうを見た。ロンもその一人だった。
「ああ……」ひん曲がった口をさらに曲げて、ムーディが微ほほ笑えんだ。「そうだ。最後にして最悪の呪文。『アバダ ケダブラ』……死の呪のろいだ」
ムーディはガラス瓶に手を突っ込んだ。すると、まるで何が起こるのかを知っているように、三番目のクモはムーディの指から逃のがれようと、瓶の底を狂ったように走り出した。しかしムーディはそれを捕らえ、机の上に置いた。クモはそこでも、木の机の端はしのほうへと必死で走った。
ムーディが杖つえを振り上げた。ハリーは突然、不吉な予感に胸が震ふるえた。
「アバダ ケダブラ!」
ムーディの声が轟とどろいた。
目も眩くらむような緑の閃せん光こうが走り、まるで目に見えない大きなものが宙に舞い上がるような、グォーッという音がした――その瞬間しゅんかん、クモは仰あお向むけにひっくり返った。何の傷きずもない。しかし、紛まぎれもなく死んでいた。女の子が何人か、あちこちで声にならない悲ひ鳴めいを上げた。クモがロンのほうにすっと滑すべったので、ロンはのけ反り、危あやうく椅子から転げ落ちそうになった。
ムーディは死んだクモを机から床に払い落とした。
「よくない」ムーディの声は静かだ。
「気持のよいものではない。しかも、反対呪文は存在しない。防ぎようがない。これを受けて生き残った者は、ただ一人。その者は、わしの目の前に座っている」