ムーディの目が(しかも両眼りょうがんが)、ハリーの目を覗のぞき込んだ。ハリーは顔が赤くなるのを感じた。みんなの目がいっせいにハリーに向けられるのも感じ取った。ハリーは何も書いてない黒板を、魅みせられたかのように見つめたが、実は何も見てはいなかった……。
そうなのか。父さん、母さんは、こうして死んだのか……あのクモとおんなじように。あんなふうに、何の傷も、印もなく。肉体から命が拭ぬぐい去られるとき、ただ緑の閃光を見、駆かけ抜ける死の音を聞いただけだったのだろうか?
この三年間というもの、ハリーは両親の死の光景を、繰り返し繰り返し思い浮かべてきた。両親が殺されたということを知ったときから、あの夜に何が起こったかを知ったときからずっと。ワームテールが両親を裏うら切ぎって、ヴォルデモートにその居い所どころを漏もらし、二人を追って、その隠れ家にヴォルデモートがやってきた。ヴォルデモートはまず父親を殺した。ジェームズ・ポッターは、妻に向かって、ハリーを連れて逃げろと叫さけびながら、ヴォルデモートを食い止めようとした……ヴォルデモートはリリー・ポッターに迫せまり、どけ、ハリーを殺す邪じゃ魔まをするな、と言った……母親は、代わりに自分を殺してくれとヴォルデモートにすがり、あくまでも息子をかばい続けて離れなかった……そして、ヴォルデモートは、母親をも殺し、杖つえをハリーに向けた……。
一年前、吸きゅう魂こん鬼きと戦ったとき、ハリーは両親の最期いまわの声を聞いた。そしてこうした細かい光景を知ったのだ――吸魂鬼の恐ろしい魔力が、餌え食じきとなる者に、人生最悪の記憶をありありと思い出させ、絶望と無力感に溺おぼれるようにし向けるのだ……。
ムーディがまた話し出した――遥はるかかなたで――とハリーには聞こえた。力を奮ふるい起こし、ハリーは自分を現実に引き戻し、ムーディの言うことに耳を傾けた。