「『アバダ ケダブラ』の呪のろいの裏には、強力な魔力が必要だ――おまえたちがこぞって杖を取り出し、わしに向けてこの呪文を唱となえたところで、わしに鼻血さえ出させることができるものか。しかし、そんなことはどうでもよい。わしは、おまえたちにそのやり方を教えにきているわけではない」
「さて、反はん対たい呪じゅ文もんがないなら、なぜおまえたちに見せたりするのか? それは、おまえたちが知っておかなければならないからだ。最悪の事じ態たいがどういうものか、おまえたちは味わっておかなければならない。せいぜいそんなものと向き合うような目に遭あわぬようにするんだな。油ゆ断だん大たい敵てき!」
声が轟とどろき、またみんな跳び上がった。
「さて……この三つの呪文だが――『アバダ ケダブラ』、『服従ふくじゅうの呪文』、『磔はりつけの呪文』――これらは『許されざる呪文』と呼ばれる。同類であるヒトに対して、このうちどれか一つの呪いをかけるだけで、アズカバンで終しゅう身しん刑けいを受けるに値する。おまえたちが立ち向かうのは、そういうものなのだ。そういうものに対しての戦い方を、わしはおまえたちに教えなければならない。備えが必要だ。武ぶ装そうが必要だ。しかし、何よりもまず、常に、絶えず、警けい戒かいすることの訓練が必要だ。羽根ペンを出せ……これを書き取れ……」
それからの授業は、「許されざる呪文」のそれぞれについて、ノートを取ることに終始した。ベルが鳴るまで、誰も何もしゃべらなかった――しかし、ムーディが授業の終わりを告げ、誰もが教室を出るとすぐに、ワッとばかりにおしゃべりが噴出ふんしゅつした。ほとんどの生徒が、恐ろしそうに呪文の話をしていた――「あのクモのぴくぴく、見たか?」「――それに、ムーディが殺したとき――あっという間だ!」
みんなが、まるですばらしいショーか何かのように――とハリーは思った――授業の話をしていた。しかし、ハリーにはそんなに楽しいものとは思えなかった――どうやら、ハーマイオニーも同じ思いだったらしい。