それから数週間、ハリーは、シリウスのことを心配しないように努めた。もちろん、毎朝ふくろう郵便が着くたびに、心配で、どうしてもふくろうたちを見回してしまうし、夜遅く眠りに落ちる前に、シリウスがロンドンの暗い通りで吸きゅう魂こん鬼きに追いつめられている、恐ろしい光景が目に浮かんでしまうのも、どうしようもなかった。しかし、それ以外は、名な付づけ親おやのシリウスのことを考えないように努めた。ハリーは、クィディッチができれば気晴らしになるのにな、と思った。心配事がある身には、激はげしい特訓ほどよく効く薬はない。一方、授業はますます難しく、苛か酷こくになってきた。とくに、「闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ」がそうだった。
驚いたことに、ムーディ先生は、「服従ふくじゅうの呪じゅ文もん」を生徒一人ひとりにかけて、呪文の力を示し、果たして生徒がその力に抵てい抗こうできるかどうかを試すと発表した。
ムーディは杖つえを一ひと振ふりして机を片づけ、教室の中央に広いスペースを作った。そのとき、ハーマイオニーが、どうしようかと迷いながら言った。
「でも――でも、先生、それは違法だとおっしゃいました。たしか――同類であるヒトにこれを使用することは――」
「ダンブルドアが、これがどういうものかを、体験的におまえたちに教えてほしいというのだ」ムーディの「魔法の目」が、ぐるりと回ってハーマイオニーを見み据すえ、瞬まばたきもせず、無気味な眼まな差ざしで凝ぎょう視しした。
「もっと厳きびしいやり方で学びたいというのであれば――いつか誰かがおまえにこの呪文をかけ、おまえを完全に支配する。そのときに学ぶというのであれば――わしは一向にかまわん。授業を免めん除じょする。出ていくがよい」