最高にすばらしい気分だった。すべての思いも悩みもやさしく拭ぬぐい去られ、つかみどころのない、漠ばく然ぜんとした幸福感だけが頭に残り、ハリーはふわふわと浮かんでいるような心地がした。ハリーはすっかり気分が緩ゆるみ、周りのみんなが自分を見つめていることを、ただぼんやりと意識しながらその場に立っていた。
すると、マッド‐アイ・ムーディの声が、虚うつろな脳みそのどこか遠くの洞ほこらに響ひびき渡るように聞こえてきた。机に飛び乗れ……机に飛び乗れ……。
ハリーは膝ひざを曲げ、跳躍ちょうやくの準備をした。
机に飛び乗れ……。
待てよ。なぜ?
頭のどこかで、別の声が目覚めた。そんなこと、ばかげている。その声が言った。
机に飛び乗れ……。
嫌いやだ。そんなこと、僕、気が進まない。もう一つの声が、前よりもややきっぱりと言った……嫌だ。僕、そんなこと、したくない……。
飛べ! いますぐだ!
次の瞬間しゅんかん、ハリーはひどい痛みを感じた。飛び上がると同時に、飛び上がるのを自分で止めようとしたのだ――その結果、机にまともにぶつかり、机をひっくり返していた。そして、両脚の感覚からすると、膝ひざ小こ僧ぞうの皿が割れたようだ。
「よーし、それだ! それでいい!」
ムーディの唸り声がして、突然ハリーは、頭の中の、虚ろな、こだまするような感覚が消えるのを感じた。自分に何が起こっていたかを、ハリーははっきり覚えていた。そして、膝の痛みが倍になったように思えた。
「おまえたち、見たか……ポッターが戦った! 戦って、そして、もう少しで打ち負かすところだった! もう一度やるぞ、ポッター。あとの者はよく見ておけ――ポッターの目をよく見ろ。その目に鍵かぎがある――いいぞ、ポッター。まっこと、いいぞ! やつらは、おまえを支配するのにはてこずるだろう!」