淡あわい水色のローブを着た少年が馬車から飛び降り、前屈かがみになって馬車の底をゴソゴソいじっていたが、すぐに金色の踏ふみ台を引っ張り出した。少年が恭うやうやしく飛び退のいた。すると、馬車の中から、ピカピカの黒いハイヒールが片方現れた――子供用のソリほどもある靴くつだ――続いて、ほとんど同時に現れた女性は、ハリーが見たこともないような大きさだった。馬車の大きさ、天馬の大きさも、たちまち納得がいった。何人かがあっと息を呑のんだ。
この女性ほど大きい人を、ハリーはこれまでにたった一人しか見たことがない。ハグリッドだ。背せ丈たけも、三センチと違わないのではないかと思った。しかし、なぜか――たぶん、ハリーがハグリッドに慣なれてしまったせいだろう――この女性は(いま、踏み台の下に立ち、目を見張って待ち受ける生徒たちを見回していたが)ハグリッドよりも、とてつもなく大きく見えた。玄げん関かんホールから溢あふれる光の中に、その女性が足を踏み入れたとき、顔が見えた。小麦色の滑なめらかな肌はだにキリッとした顔つき、大きな黒い潤うるんだ瞳ひとみ、鼻はつんと尖とがっている。髪かみは引ひっ詰つめ、低い位置にツヤツヤした髷まげを結っている。頭から爪つま先さきまで、黒くろ繻じゅ子すをまとい、何個もの見事なオパールが襟えり元もとと太い指で光を放っていた。
ダンブルドアが拍手した。それにつられて、生徒もいっせいに拍手した。この女性をもっとよく見たくて、背伸びしている生徒がたくさんいた。
女性は表情を和やわらげ、優ゆう雅がに微ほほ笑えんだ。そしてダンブルドアに近づき、きらめく片手を差し出した。ダンブルドアも背は高かったが、手に接せっ吻ぷんするのに、ほとんど体を曲げる必要がなかった。
「これはこれは、マダム・マクシーム」ダンブルドアが挨あい拶さつした。「ようこそホグワーツへ」
「ダンブリー・ドール」マダム・マクシームが、深いアルトで答えた。「おかわりーありませーんか?」
「お陰さまで、上々じゃ」ダンブルドアが答えた。
「わたーしのせいとです」
マダム・マクシームは巨大な手の片方を無む造ぞう作さに後ろに回して、ひらひら振った。