「ありがとう」カルカロフは何気なくそう言って、ハリーをちらと見た。
とたんにカルカロフが凍こおりついた。カルカロフはハリーのほうを振り向き、我が目を疑うという表情でハリーをまじまじと見た。校長の後ろについていたダームストラング生も急に立ち止まった。カルカロフの視し線せんが、ゆっくりとハリーの顔を移動し、傷きず痕あとの上に釘くぎづけになった。ダームストラング生も不思議そうにハリーを見つめた。そのうち何人かがはっと気づいた表情になったのを、ハリーは目の片かた隅すみで感じた。ローブの胸が食べこぼしで一杯の男の子が、隣となりの女の子を突っつき、おおっぴらにハリーの額ひたいを指差した。
「そうだ。ハリー・ポッターだ」後ろから、声が轟とどろいた。
カルカロフ校長がくるりと振り向いた。マッド‐アイ・ムーディが立っている。ステッキに体を預け、「魔法の目」が瞬まばたきもせず、ダームストラングの校長をギラギラと見み据すえていた。ハリーの目の前で、カルカロフの顔からさっと血の気が引き、怒りと恐れの入り交まじったすさまじい表情に変わった。
「おまえは!」カルカロフは、亡ぼう霊れいでも見るような目つきでムーディを見つめた。
「わしだ」凄すごみのある声だった。「ポッターに何も言うことがないなら、カルカロフ、退のくがよかろう。出口を塞ふさいでいるぞ」
たしかにそうだった。大おお広ひろ間まの生徒の半分がその後ろで待たされ、何が邪じゃ魔ましているのだろうと、あちこちから首を突き出して前を覗のぞいていた。
一言も言わず、カルカロフ校長は、自分の生徒を掻かき集めるようにして連れ去った。ムーディはその姿が見えなくなるまで、「魔法の目」でその背中をじっと見ていた。傷きずだらけの歪ゆがんだ顔に激はげしい嫌けん悪お感かんが浮かんでいた。