「どこにいたんだい?」ハリーが聞いた。
「ああ、やあ」ロンが答えた。
ロンはニッコリしていたが、何か不自然で、無理やり笑っている。ハリーは、リーに巻きつけられた真しん紅くのグリフィンドール寮りょう旗きが、まだそのままだったことに気づいた。急いで取ろうとしたが、旗は固く結びつけてあった。ロンはハリーが旗を取ろうともがいているのを、ベッドに横になったまま、身動きもせずに見つめていた。
「それに――」ハリーがやっと旗を取り、隅すみのほうに放り投げると、ロンが言った。「おめでとう」
「おめでとうって、どういう意味だい?」
ハリーはロンを見つめた。ロンの笑い方は、絶対に変だ。しかめっ面と言ったほうがいい。
「ああ……ほかに誰も『年ねん齢れい線せん』を越えた者はいないんだ」ロンが言った。「フレッドやジョージだって。君、何を使ったんだ?――透とう明めいマントか?」
「透明マントじゃ、僕は線を越えられないはずだ」ハリーがゆっくり言った。
「ああ、そうだな」ロンが言った。「透明マントだったら、君は僕にも話してくれただろうと思うよ……だって、あれなら二人でも入れるだろ? だけど、君は別の方法を見つけたんだ。そうだろう?」
「ロン」ハリーが言った。「いいか。僕はゴブレットに名前を入れてない。ほかの誰かがやったに違いない」
ロンは眉まゆを吊つり上げた。
「何のためにやるんだ?」
「知らない」ハリーが言った。
「僕を殺すために」などと言えば、俗なメロドラマめいて聞こえるだろうと思ったのだ。
ロンは眉をさらにギュッと吊り上げた。あまりに吊り上げたので、髪かみに隠れて見えなくなるほどだった。
「大丈夫だから、な、僕にだけはほんとうのことを話しても」ロンが言った。「ほかの誰かに知られたくないって言うなら、それでいい。だけど、どうして嘘うそつく必要があるんだい? 名前を入れたからって、別に面倒なことになったわけじゃないんだろう? あの『太った婦人レディ』の友達のバイオレットが、もう僕たち全員にしゃべっちゃったんだぞ。ダンブルドアが君を出場させるようにしたってことも。賞金一千ガリオン、だろ? それに、期末テストを受ける必要もないんだ……」
「僕はゴブレットに名前を入れてない!」ハリーは怒りが込み上げてきた。
「フーン。オッケー」ロンの言い方は、セドリックのとまったく同じで、信じていない口調だった。「今朝、自分で言ってたじゃないか。自分なら昨日きのうの夜のうちに、誰も見ていないときに入れたろうって……。僕だってバカじゃないぞ」
「バカの物まねがうまいよ」ハリーはバシッと言った。
「そうかい?」作り笑いだろうが何だろうが、ロンの顔にはもう笑いのひとかけらもない。
「君は早く寝たほうがいいよ、ハリー。明日は写真撮さつ影えいとか何か、きっと早く起きる必要があるんだろうよ」
ロンは四本柱のベッドのカーテンをぐいっと閉めた。取り残されたハリーは、ドアのそばで突っ立ったまま、深しん紅くのビロードのカーテンを見つめていた。いま、そのカーテンは、間違いなく自分を信じてくれるだろうと思っていた数少ない一人の友を、覆おおい隠していた。