「一つあげようか? グレンジャー?」マルフォイがハーマイオニーにバッジを差し出した。
「たくさんあるんだ。だけど、僕の手にいま触さわらないでくれ。手を洗ったばかりなんだ。『穢けがれた血ち』でベットリにされたくないんだよ」
何日も何日も溜たまっていた怒りの一いっ端たんが、ハリーの胸の中で堰せきを切ったように噴き出した。ハリーは無意識のうちに杖つえに手をやっていた。周りの生徒たちが、慌あわててその場を離れ、廊ろう下かで遠巻きにした。
「ハリー!」ハーマイオニーが引き止めようとした。
「やれよ、ポッター」マルフォイも杖を引っ張り出しながら、落ち着き払った声で言った。「こんどは、庇かばってくれるムーディもいないぞ――やれるものならやってみろ――」
一瞬いっしゅん、二人の目に火花が散った。それからまったく同時に、二人が動いた。
「ファーナンキュラス! 鼻はな呪のろい!」ハリーが叫さけんだ。
「デンソージオ! 歯は呪のろい!」マルフォイも叫んだ。
二人の杖から飛び出した光が、空中でぶつかり、折れ曲がって撥はね返った――ハリーの光線はゴイルの顔を直撃ちょくげきし、マルフォイのはハーマイオニーに命中した。ゴイルは両手で鼻を覆おおって喚わめいた。醜みにくい大きな腫でき物ものが、鼻にボツボツ盛り上がりつつあった――ハーマイオニーはぴったり口を押さえて、おろおろ声を上げていた。
「ハーマイオニー!」いったいどうしたのかと、ロンが心配して飛び出してきた。
ハリーが振り返ると、ロンがハーマイオニーの手を引っ張って、顔から離したところだった。見たくない光景だった。ハーマイオニーの前歯が――もともと平均より大きかったが――いまや驚くほどの勢いで成長していた。歯が伸びるにつれて、ハーマイオニーはビーバーそっくりになってきた。下した唇くちびるより長くなり、下した顎あごに迫せまり――ハーマイオニーは慌あわてふためいて、歯を触さわり、驚いて叫び声を上げた。