マントの中で、ハリーはすばらしい開放感を味わった。村に入るとき、ほかの生徒が二人を追い越したり、行き違ったりするのを、ハリーは観察できた。ほとんどが「セドリック・ディゴリーを応おう援えんしよう」のバッジを着けていたが、いつもと違って、ハリーにひどい言葉を浴びせる者も、あのバカな記事に触ふれる生徒もいなかった。
「こんどはみんな、私をちらちら見てるわ」クリームたっぷりの大きなチョコレートを頬ほお張ばりながら「ハニーデュークス菓子店」から出てきたハーマイオニーが、不ふ機き嫌げんに言った。「みんな、私が独ひとり言ごとを言ってると思ってるのよ」
「それなら、そんなに唇くちびるを動かさないようにすればいいじゃないか」
「あのねえ、ちょっと『マント』を脱ぬいでよ。ここなら誰もあなたにかまったりしないわ」
「そうかな?」ハリーが言った。「後ろを見てごらんよ」
リータ・スキーターと、その友人のカメラマンが、パブ「三さん本ぼんの箒ほうき」から現れたところだった。二人は、ヒソヒソ声で話しながら、ハーマイオニーのほうを見もせずにそばを通り過ぎた。ハリーは、リータ・スキーターのワニ革がわハンドバッグで打ぶたれそうになり、後あと退ずさりしてハニーデュークスの壁かべに張りついた。
二人の姿が見えなくなってから、ハリーが言った。
「あの人、この村に泊まってるんだ。第一の課題を見にきたのに違いない」
そう言ったとたん、ドロドロに溶けた恐怖感が、ハリーの胃にどっと溢あふれた。ハリーはそのことを口には出さなかった。ハリーもハーマイオニーも、第一の課題が何なのか、これまであまり話題にしなかった。ハーマイオニーもそのことを考えたくないのだろうと、ハリーはそんな気がしていた。
「行っちゃったわ」ハーマイオニーの視し線せんはハリーの体を通り抜けて、ハイストリート通りの向こう端はしを見ていた。
「『三本の箒』に入って、バタービールを飲みましょうよ。ちょっと寒くない?……ロンには話しかけなくてもいいわよ!」ハリーが返事をしないわけを、ハーマイオニーは、ちゃんと察さっして、イライラした口調でつけ加えた。