マダム・マクシームは後ろ手に扉とびらを閉め、ハグリッドがマダムに腕を差し出し、二人はマダムの巨大な天馬が囲われているパドックを回って歩いていった。ハリーは何がなんだかわからないまま、二人に追いつこうと走ってついていった。ハグリッドはハリーにマダム・マクシームを見せたかったのだろうか? マダムならハリーはいつだって好きなときに見ることができるのに……マダムを見落とすのはなかなか難しいもの……。
しかし、どうやら、マダム・マクシームもハリーと同じもてなしに与あずかるらしい。しばらくしてマダムが艶つやっぽい声で言った。
「アハグリッド、いったいわたしを、どーこに連れていくのでーすか?」
「きっと気に入る」ハグリッドの声は愛あい想そなしだ。「見る価値ありだ、ほんとだ。たーだ――俺おれが見せたってことは誰にも言わねえでくれ、いいかね? あなたは知ってはいけねえことになってる」
「もちろーんです」マダム・マクシームは長い黒い睫まつ毛げをパチパチさせた。
そして二人は歩き続けた。そのあとを小走りについていきながら、ハリーはだんだん落ち着かなくなってきた。腕時計を頻ひん繁ぱんに覗のぞき込んだ。ハグリッドの気まぐれな企てのせいで、ハリーは、シリウスに会い損そこねるかもしれない。もう少しで目的地に着くのでなければ、まっすぐ城に引き返そう。ハグリッドは、マダム・マクシームと二人で月明かりのお散歩と洒しゃ落れ込めばいい……。
しかし、そのとき――「禁じられた森」の周囲をずいぶん歩いたので、城も湖も見えなくなっていたが――ハリーは何か物音を聞いた。前方で男たちが怒ど鳴なっている……続いて耳を劈つんざく大だい咆ほう哮こう……。
ハグリッドは木立を回り込むようにマダム・マクシームを導き、立ち止まった。ハリーも急いでつき従った――一瞬いっしゅん、ハリーは焚たき火を見たかと思った。男たちがその周りを跳び回っているのだと――次の瞬間しゅんかん、ハリーはあんぐり口を開あけた。