ハリーは「透明マント」を脱ぬぎ捨て、暖炉の前の肘ひじ掛かけ椅い子すに倒れ込んだ。部屋は薄うす暗ぐらく、暖炉の炎だけが明かりを放っていた。クリービー兄弟が何とかしようとがんばっていた「セドリック・ディゴリーを応おう援えんしよう」バッジが、そばのテーブルで、暖炉の火を受けてチカチカしていた。いまや、「ほんとに汚いぞ、ポッター」に変わっていた。暖炉の炎を振り返ったハリーは、飛び上がった。
シリウスの生なま首くびが炎の中に座っていた。ウィーズリー家のキッチンで、ディゴリー氏がまったく同じことをするのを見ていなかったら、ハリーは縮ちぢみ上がったに違いない。怖こわがるどころか、ここしばらく笑わなかったハリーが、久し振りにニッコリした。ハリーは、急いで椅子から飛び降り、暖だん炉ろの前に屈かがみ込んで話しかけた。
「シリウスおじさん――元気なの?」
シリウスの顔は、ハリーの覚えている顔と違って見えた。さよならを言ったときは、シリウスの顔は痩やせこけ、目は落ち窪くぼみ、黒い長髪ちょうはつがモジャモジャと絡からみついて顔の周りを覆おおっていた――でもいまは髪かみをこざっぱりと短く切り、顔は丸みを帯び、あのときより若く見えた。ハリーがたった一枚だけ持っているシリウスのあの写真、両親の結婚式の写真に近かった。
「わたしのことは心配しなくていい。君はどうだね?」シリウスは真剣な口調だった。
「僕は――」ほんの一瞬いっしゅん、「元気です」と言おうとした――しかし言えなかった。堰せきを切ったように言葉が迸ほとばしり出た。ここ何日か分の穴埋めをするように、ハリーは一気にしゃべった――自分の意思でゴブレットに名前を入れたのではないと言っても、誰も信じてくれなかったこと、リータ・スキーターが「日にっ刊かん予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん」でハリーについて嘘うそ八はっ百ぴゃくを書いたこと、廊ろう下かを歩いていると必ず誰かがからかうこと――そして、ロンのこと。ロンがハリーを信用せず、嫉やき妬もちを焼いている……。
「……それに、ハグリッドがついさっき、第一の課題が何なのか、僕に見せてくれたの。ドラゴンなんだよ、シリウス。僕、もうおしまいだ」ハリーは絶望的になって話し終えた。