しかし、ハリーは手を上げてシリウスの言葉を遮さえぎった。心臓が破は裂れつしそうに、急にドキドキし出した。背はい後ごの螺ら旋せん階かい段だんを誰かが下りてくる足音を聞いたのだ。
「行って!」ハリーは声を殺してシリウスに言った。「行って! 誰か来る!」
ハリーは急いで立ち上がり、暖だん炉ろの火を体で隠した――ホグワーツの城内で誰かがシリウスの顔を見ようものなら、何もかもひっくり返るような大騒ぎになるだろう――魔ま法ほう省しょうが乗り込んでくるだろう――ハリーが、シリウスの居場所を問い詰められるだろう――。
背後でポンと小さな音がした。それで、シリウスはいなくなったとわかった――ハリーは螺旋階段の下を見つめていた――午前一時に散歩を決め込むなんて、いったい誰だ? ドラゴンをうまく出し抜くやり方を、シリウスがハリーに教えるのを邪じゃ魔ましたのは誰なんだ?
ロンだった。栗色のペーズリー柄がらのパジャマを着たロンが、部屋の反対側で、ハリーと向き合ってぴたりと立ち止まり、あたりをキョロキョロ見回した。
「誰と話してたんだ?」ロンが聞いた。
「君には関係ないだろう?」ハリーが唸うなるように言った。「こんな夜中に、何しにきたんだ?」
「君がどこに――」ロンは途と中ちゅうで言葉を切り、肩をすくめた。「別に。僕、ベッドに戻る」
「ちょっと嗅かぎ回ってやろうと思ったんだろう?」ハリーが怒ど鳴なった。ロンは、自分がどんな場面に出くわしてしまったのかを知るはずもないし、わざとやったのではないということも、ハリーにはよくわかっていた。しかし、そんなことはどうでもよかった――ハリーは、いまこの瞬間しゅんかん、ロンのすべてが憎らしかった。パジャマの下から数センチはみ出している、むき出しの踝くるぶしまでが憎たらしかった。
「悪かったね」ロンは怒りで顔を真っ赤にした。「君が邪じゃ魔まされたくないんだってこと、認識しておかなきゃ。どうぞ、次のインタビューの練習を、お静かにお続けください」
ハリーは、テーブルにあった「ほんとに汚いぞ、ポッター」バッジを一つつかむと、力まかせに部屋の向こう側に向かって投げつけた。バッジはロンの額ひたいに当たり、撥はね返った。
「そーら」ハリーが言った。「火曜日にそれを着けて行けよ。うまくいけば、たったいま、君も額に傷きず痕あとができたかもしれない……。傷がほしかったんだろう?」
ハリーは階段に向かってずんずん歩いた。ロンが引き止めてくれないかと、半なかば期待していた。ロンにパンチを食らわされたいとさえ思った。しかし、ロンはつんつるてんのパジャマを着て、ただそこに突っ立っているだけだった。ハリーは、荒々しく寝しん室しつに上がり、長いこと目を開けたままベッドに横たわり、怒りに身を任まかせていた。ロンがベッドに戻ってくる気配はついになかった。