ハリーはその夜、「呼び寄せ呪文」を習得するのに全神経を集中していたので、言い知れない恐怖感も少しは薄うすれていた。しかし、翌よく朝あさにはそれがそっくり戻ってきた。学校中の空気が緊きん張ちょうと興こう奮ふんで張り詰めていた。授業は半日で終わり、生徒がドラゴンの囲い地に出かける準備の時間が与えられた――もちろん、みんなは、そこに何があるのかを知らなかった。
ハリーは周りのみんなから切り離されているような奇妙な感じがした。がんばれと応おう援えんしていようが、すれ違いざま「ティッシュ一箱用意してあるぜ、ポッター」と憎まれ口を叩たたこうが、同じことだった。神経が極度に昂たかぶっていた。ドラゴンの前に引き出されたら、理性など吹き飛んで、誰かれ見境なく呪のろいをかけはじめるのではないかと思った。
時間もこれまでになくおかしな動き方をした。ボタッボタッと大きな塊かたまりになって時が飛び去り、ある瞬間しゅんかんには一時間目の「魔ま法ほう史し」で机を前に腰かけたかと思えば、次の瞬間は昼食に向かっていた……そして(いったい午前中はどこに行ったんだ? ドラゴンなしの最後の時間はどこに?)、マクゴナガル先生が大おお広ひろ間まにいるハリーのところへ急いでやってきた。大勢の生徒がハリーを見つめている。
「ポッター、代表選手は、すぐ競きょう技ぎ場じょうに行かなければなりません……第一の課題の準備をするのです」
「わかりました」立ち上がると、ハリーのフォークがカチャリと皿に落ちた。
「がんばって! ハリー!」ハーマイオニーが囁ささやいた。「きっと大丈夫!」
「うん」ハリーの声は、いつもの自分の声とまるで違っていた。
ハリーはマクゴナガル先生と一いっ緒しょに大広間を出た。先生もいつもの先生らしくない。事実、ハーマイオニーと同じくらい心配そうな顔をしていた。石段を下りて十一月の午後の寒さの中に出てきたとき、先生はハリーの肩に手を置いた。