飛ひ翔しょうしたとき、風が髪かみをなびかせたとき、ずっと下で観衆の顔が肌色の点になり、ホーンテールが犬ほどの大きさに縮んだとき、ハリーは気づいた。地面を離れただけでなく、恐怖からも離れたのだと……ハリーは自分の世界に戻ったのだ……。
クィディッチの試合と同じだ。それだけなんだ……またクィディッチの試合をしているだけなんだ。ホーンテールは醜悪しゅうあくな敵のチームじゃないか……。
ハリーは抱え込まれた卵を見下ろし、金の卵を見つけた。ほかのセメント色の卵に混じって光を放ち、ドラゴンの前脚の間に安全に収まっている。
「オッケー」ハリーは自分に声をかけた。「陽よう動どう作さく戦せんだ……行くぞ……」
ハリーは急降下した。ホーンテールの首がハリーを追った。ドラゴンの次の動きを読んでいたハリーは、それより一瞬いっしゅん早く上昇に転じた。そのまま突き進んでいたなら直撃ちょくげきされていたに違いない場所めがけて火炎が噴ふん射しゃされた……しかし、ハリーは気にもしなかった……ブラッジャーを避よけるのとおんなじだ……。
「いやあ、たまげた。何たる飛びっぷりだ!」バグマンが叫んだ。観衆は声を絞しぼり、息を呑のんだ。「クラム君、見てるかね?」
ハリーは高く舞い上がり、弧こを描いた。ホーンテールはまだハリーの動きを追っている。長い首を伸ばし、その上で頭がぐるぐる回っている――このまま続ければ、うまい具合に目を回すかもしれない――しかし、あまり長くは続けないほうがいい。さもないと、ホーンテールがまた火を吐はくかもしれない――。
ハリーは、ホーンテールが口を開けたとたんに、急降下した。しかし、こんどはいまひとつツキがなかった――炎はかわしたが、代わりに尻尾しっぽが鞭むちのように飛んできて、ハリーを狙った。ハリーが左に逸それて尾をかわしたとき、長い棘とげが一本、ハリーの肩をかすめ、ローブを引き裂さいた――。ハリーは傷きずがズキズキするのを感じ、観衆が叫んだり呻うめいたりするのを聞いた。しかし傷はそれほど深くなさそうだ……こんどはホーンテールの背はい後ごに回り込んだ。そのとき、これなら可能性がある、と、あることを思いついた……。