「同じことを八十回も言ってなけりゃ、少しはパンチが効いたかもしれないけど」トレローニー先生の部屋から降りる階段で、やっと新しん鮮せんな空気を取り戻し、ハリーが言った。「だけど、僕が死ぬって先生が言うたびに、いちいち死んでたら、僕は医学上の奇き跡せきになっちゃうよ」
「超ちょう濃のう縮しゅくゴーストってとこかな」ロンもおもしろそうに笑った。ちょうど「血ちみどろ男爵だんしゃく」が不ふ吉きつな目をギョロギョロさせながら二人とすれ違うところだった。「宿題が出なかっただけよかったよ。ベクトル先生がハーマイオニーに、がっぽり宿題を出してるといいな。あいつが宿題やってるとき、こっちがやることがないってのがいいねえ……」
しかし、ハーマイオニーは夕食の席にいなかった。そのあと二人で図書室に探しにいったが、やはりいなかった。ビクトール・クラムだけだった。ロンは、しばらく書しょ棚だなの陰をうろうろしながらクラムを眺ながめ、サインを頼むべきかどうかハリーに小声で相談していた――しかしそのとき、六、七人の女子生徒が隣となりの書棚の陰にひそんで、まったく同じことを相談しているのに気づき、ロンはやる気をなくした。
「あいつ、どこ行っちゃったのかなぁ?」二人でグリフィンドール塔とうに戻るとき、ロンが言った。
「さあな……『ボールダーダッシュたわごと』」
ところが、「太った婦人レディ」が開くか開かないうちに、二人の背はい後ごにバタバタと走ってくる音が聞こえた。ハーマイオニーのご到着とうちゃくだ。
「ハリー!」ハリーの脇わきで急きゅう停てい止しし、息を切らしながらハーマイオニーが呼びかけた(「太った婦人レディ」が眉まゆを吊つり上げてハーマイオニーを見下ろした)。「ハリー、一いっ緒しょに来て――来なきゃダメ。とってもすごいことが起こったんだから――お願い――」
ハーマイオニーはハリーの腕をつかみ、廊ろう下かのほうに引き戻そうとした。