「ハリー・ポッターは紅茶を一杯お飲みになりますか?」ウィンキーの泣き声に負けない大きなキーキー声で、ドビーが聞いた。
「あ――うん。オッケー」ハリーが答えた。
たちまち、六人ぐらいのしもべ妖よう精せいがハリーの背はい後ごから小走りにやってきた。ハリー、ロン、ハーマイオニーのために、大きな銀の盆ぼんに載のせて、ティーポット、三人分のティーカップ、ミルク入れ、大皿に盛もったビスケットを持ってきたのだ。
「サービスがいいなあ!」ロンが感心したように言った。ハーマイオニーはロンを睨にらんだが、しもべ妖精たちは全員、うれしそうで、深々と頭を下げながら退しりぞいた。
「ドビー、いつからここにいるの?」ドビーが紅茶の給きゅう仕じを始めたとき、ハリーが聞いた。
「ほんの一週間前でございます。ハリー・ポッターさま!」ドビーがうれしそうに答えた。「ドビーはダンブルドア校長先生のところに来たのでございます。おわかりいただけると存じますが、解かい雇こされたしもべ妖精が新しい職を得るのは、とても難しいのでございます。ほんとうに難しいので――」
ここでウィンキーの泣き声がいちだんと激はげしくなった。つぶれたトマトのような鼻から鼻水がボタボタ垂たれたが、止めようともしない。
「ドビーは丸二年間、仕事を探して国中を旅したのでございます!」ドビーはキーキー話し続けた。「でも、仕事は見つからなかったのでございます。なぜなら、ドビーはお給料がほしかったからです!」
興きょう味み津しん々しんで見つめ、聞き入っていた厨房中のしもべ妖精が、この言葉で全員顔を背そむけた。ドビーが、何か無作法で恥ずかしいことを口にしたかのようだった。
しかし、ハーマイオニーは、「そのとおりだわ、ドビー!」と言った。
「お嬢じょうさま、ありがとうございます!」ドビーがニカーッと歯を見せてハーマイオニーに笑いかけた。「ですが、お嬢さま、大多数の魔法使いは、給料を要求する屋や敷しきしもべ妖よう精せいをほしがりません。『それじゃ屋敷しもべにならない』とおっしゃるのです。そして、ドビーの鼻先でドアをぴしゃりと閉めるのです! ドビーは働くのが好きです。でもドビーは服を着たいし、給料をもらいたい。ハリー・ポッター……ドビーめは自由が好きです!」
ホグワーツのしもべ妖精たちは、まるでドビーが何か伝でん染せん病びょうでも持っているかのように、じりじりとドビーから離れはじめた。ウィンキーはその場から動かなかった。ただし、明らかに泣き声のボリュームが上がった。