「あの――チョウ・ ちょっと二人だけで話せる?」
チョウと一いっ緒しょの女の子たちがクスクス笑いはじめた。ハリーは腹が立って、クスクス笑いは法律で禁じるべきだと思った。しかし、チョウは笑わなかった。「いいわよ」と言って、クラスメイトに声が聞こえないところまで、ハリーについてきた。ハリーはチョウのほうに向き直った。まるで階段を下りるとき一段踏ふみはずしたように、胃が奇妙に揺ゆれた。
「あの」ハリーが言った。だめだ。チョウに申し込むなんてできない。でもやらなければ。チョウは、そこに立ったまま「何かしら?」という顔でハリーを見ていた。
舌がまだ十分整わないうちに、言葉が出てしまった。
「ぼくダンパティいたい?」
「え?」チョウが聞き返した。
「よかったら――よかったら、僕とダンスパーティに行かない?」ハリーは言った。
どうしていま、僕は赤くならなきゃならないんだ? どうして?
「まあ!」チョウも赤くなった。「まあ、ハリー。ほんとうに、ごめんなさい」チョウはほんとうに残念そうな顔をした。「もう、ほかの人と行くって言ってしまったの」
「そう」ハリーが言った。変な気持だ。いまのいままで、ハリーの内臓は蛇へびのようにのたうっていたのに、急に腹の中が空からっぽになったような気がした。
「そう。オッケー」ハリーは言った。「それならいいんだ」
「ほんとうに、ごめんなさい」チョウがまた謝あやまった。
「いいんだ」
二人は見つめ合ったままそこに立っていた。やがて、チョウが言った。
「それじゃ――」
「ああ」ハリーが言った。
「それじゃ、さよなら」チョウは、まだ顔を赤らめたままそう言うと、歩きはじめた。
「誰と行くの?」ハリーは、思わず後ろからチョウを呼び止めた。
「あの――セドリック」チョウが答えた。「セドリック・ディゴリーよ」
「わかった」ハリーが言った。