ハグリッドは大きな水玉の絹のハンカチを取り出し、ブーッと鼻をかんだ。「そんで……とにかく……俺のことはもういい。あなたはどうなんですかい? どっち方かたなんで?」
しかし、マダム・マクシームは突然立ち上がった。
「冷ひえるわ」と言った――しかし、天気がどうであれ、マダム・マクシームの声ほど冷たくはなかった。「わたくし、もう、中にあはいります」
「は?」ハグリッドが放心したように言った。「いや、行かねえでくれ! 俺は――俺はこれまで俺と同類の人に会ったことがねえ!」
「同類のいったい何だと言いたいのでーすか?」マダム・マクシームは氷のような声だ。
ハリーはハグリッドに答えないほうがいいと伝えたかった。無理な願いだとわかっても、言わないでと心で叫さけびながら、ハリーは暗がりに突っ立ったままだった――願いはやはり通じなかった。
「同類の半はん巨きょ人じんだ。そうだとも!」ハグリッドが言った。
「おお、何ということを!」マダム・マクシームが叫んだ。穏おだやかな夜の空気を破り、その声は霧む笛てきのように響ひびき渡った。ハリーは背はい後ごで、フラーとロジャーがバラの茂みから飛び上がる音を聞いた。「こーんなに侮ぶ辱じょくされたことは、あはじめてでーす! あはん巨人! わたくしが? わたくしは――わたくしはおほねが太いだけでーす!」
マダム・マクシームは荒々しく去っていった。怒って茂みを掻かき分けながら歩き去ったあとには、色とりどりの妖よう精せいの群れがワッと空中に立ち昇った。ハグリッドはそのあとを目で追いながらベンチに座ったままだった。ハグリッドの表情を見るには、あたりがあまりに暗かった。それから、一分ほどもたったろうか。ハグリッドは立ち上がり、大おお股またに歩き去った。城のほうにではなく、真っ暗な校庭を自分の小屋のほうに向かって。