「行こう」ハリーはロンに向かってそーっと言った。「さあ、行こう……」
しかし、ロンは動こうとしない。
「どうしたの?」ハリーはロンを見た。
ロンは振り返ってハリーを見た。深刻な表情だった。
「知ってたか?」ロンが囁ささやいた。「ハグリッドが半巨人だってこと?」
「ううん」ハリーは肩をすくめた。「それがどうかした?」
ロンの表情から、ハリーは、自分がどんなに魔法界のことを知らないかがはっきりしたと、あらためて思い知らされた。ダーズリー一家に育てられたので、魔法使いなら当たり前のことでも、ハリーには驚くようなことがたくさんあった。そうした驚きも、学校で一年一年を過ごすうちに少なくなってきていた。ところが、いままた、友達の母親が巨人だったと知ったときに、大たい概がいの魔法使いなら「それがどうかした?」などとは言わないのだとわかった。
「中に入って説明するよ」ロンが静かに言った。「行こうか……」
フラーとロジャー・デイビースはいなくなっていた。もっと二人きりになれる茂みに移動したのだろう。ハリーとロンは大おお広ひろ間まに戻った。パーバティとパドマは、ボーバトンの男の子たちに囲まれて、いまはもう遠くのテーブルに座っていたし、ハーマイオニーはクラムともう一度ダンスしていた。ハリーとロンはダンスフロアからずっと離れたテーブルに座った。
「それで?」ハリーがロンを促うながした。「巨人のどこが問題なの?」
「そりゃ、連中は……連中は……」言葉に詰まってもたもたしたあと、「あんまりよくない」ロンは中ちゅう途と半はん端ぱな言い方をした。
「気にすることないだろ?」ハリーが言った。「ハグリッドは何にも悪くない!」
「それはわかってる。でも……驚いたなあ……ハグリッドが黙だまっていたのも無理ないよ」ロンが首を振りながら言った。「僕、ハグリッドが子供のとき、たまたま悪質な『肥ふとらせ呪じゅ文もん』に当たるかなんかしたんじゃないかって、そう思ってた。僕、そのこと言いたくなかったんだけど……」
「だけど、ハグリッドの母さんが巨人だと何が問題なの?」ハリーが聞いた。
「うーん……ハグリッドのことを知ってる人にはどうでもいいんだけど。だって、ハグリッドは危険じゃないって知ってるから」ロンが考えながら話した。「だけど……ハリー、連中は、巨人は狂暴きょうぼうなんだ。ハグリッドも言ってたけど、そういう性た質ちなんだ。トロールと同じで……とにかく殺すのが好きでさ。それはみんな知ってる。ただ、もうイギリスにはいないけど」
「どうなったわけ?」
「うん。いずれにしても絶ぜつ滅めつしつつあったんだけど、それに『闇やみ祓ばらい』にずいぶん殺されたし。でも、外国には巨人がいるらしい……だいたい山に隠れて……」