「あの人、ほんとにいい人よ」ハーマイオニーが言った。「ダームストラング生だけど、あなたが考えているような人とはまったく違うわ。ここのほうがずっと好きだって、私にそう言ったの」
ロンは何にも言わなかった。ダンスパーティ以来、ロンはビクトール・クラムの名を一度も口にしなかったが、クリスマスの翌日、ハリーはベッドの下に小さな人形の腕が転がっているのを見つけた。ポッキリ折れた腕は、どう見ても、ブルガリアのクィディッチ・ユニフォームを着たミニチュア人形の腕だった。
雪でぬかるんだハイストリート通りを、ハリーは目を凝こらしてハグリッドの姿を探しながら歩いた。どの店にもハグリッドがいないことがわかると、ハリーは「三さん本ぼんの箒ほうき」に行こうと提案した。
パブは相変わらず混み合っていた。しかし、テーブルをひとわたり、ざっと見回しただけで、ハグリッドの姿がないことがわかった。ハリーはがっくり消沈しょうちんして、ロン、ハーマイオニーと一いっ緒しょにカウンターに行き、マダム・ロスメルタにバタービールを注文した。こんなことなら、寮りょうに残って、卵の泣き喚わめく声を聞いていたほうがましだったと、ハリーは暗い気持になった。
「あの人、いったいいつ、お役所で仕事をしてるの?」突然、ハーマイオニーがヒソヒソ声で言った。
「見て!」ハーマイオニーはカウンターの後ろにある鏡を指差していた。ハリーが覗のぞくと、ルード・バグマンが映っていた。大勢の小鬼ゴブリンに囲まれて、薄うす暗ぐらい隅すみのほうに座っている。バグマンは小鬼に向かって、低い声で早口にまくしたてている。小鬼は全員腕組みして、何やら恐ろしげな雰ふん囲い気きだ。
たしかにおかしい、とハリーは思った。今週は三さん校こう対たい抗こう試じ合あいがないから審しん査さの必要もないのに、週末にバグマンが「三本の箒」にいる。ハリーは鏡のバグマンを見つめた。バグマンはまた緊張きんちょうしている。あの夜、森に「闇やみの印しるし」が現れる直前に見た、バグマンのあの緊張ぶりと同じだ。しかしそのとき、ちらりとカウンターに目を向けたバグマンが、ハリーを見つけて立ち上がった。