ハリーは腕を伸ばして、濡ぬれた手で卵を持ち上げ、開けてみた。泣き喚わめくような甲かん高だかい悲ひ鳴めいが浴室一杯に広がり、大だい理り石せきの壁に反響はんきょうしたが、相変わらずわけがわからない。それどころか、反響でよけいわかりにくかった。卵をパチンと閉じ、フィルチがこの音を聞きつけるのではないかと、ハリーは心配になった。もしかしたら、それがセドリックの狙いだったのでは――そのとき誰かの声がした。ハリーは驚いて飛び上がり、その拍ひょう子しに卵が手を離れて、浴室の床をカンカンと転がっていった。
「わたしなら、それを水の中に入れてみるけど」
ハリーはショックで、しこたま泡を飲み込んでしまった。咳せき込みながら立ち上がったハリーは、憂ゆう鬱うつな顔をした女の子のゴーストが蛇口の上にあぐらをかいて座っているのを見た。いつもは、三階下のトイレの、S字パイプの中ですすり泣いている「嘆なげきのマートル」だった。
「マートル!」ハリーは憤ふん慨がいした。「ぼ――僕は、裸はだかなんだよ!」
泡が厚く覆おおっていたので、それはあまり問題ではなかった。しかし、ハリーがここに来たときからずっと、マートルが蛇口の中からハリーの様子を窺うかがっていたのではないかと、嫌いやな感じがしたのだ。
「あんたが浴槽に入るときは目をつぶってたわ」マートルは分厚いメガネの奥でハリーに向かって目をパチパチさせた。「ずいぶん長いこと、会いにきてくれなかったじゃない」
「うん……まあ……」ハリーはマートルに頭以外は絶対何にも見えないように、少し膝ひざを曲げた。「君のいるトイレには、僕、行けないだろ? 女子トイレだもの」
「前は、そんなこと気にしなかったじゃない」マートルが惨みじめな声で言った。「しょっちゅうあそこにいたじゃない」