ハリーは考えながら浴室を見回した……水の中でしか声が聞こえないのなら、水中の生物だと考えれば筋道が立つ。マートルにこの考えを話すと、マートルはハリーに向かってニヤッと笑った。
「そうね。ディゴリーもそう考えたわ。そこに横になって、長々と独ひとり言を言ってた。長々とね……もう泡がほとんど消えていたわ……」
「水中か……」ハリーは考えた。「マートル……湖には何が棲すんでる? 大イカのほかに」
「そりゃ、いろいろだわ」マートルが答えた。「わたし、ときどき行くんだ……仕方なく行くこともあるわ。うっかりしてるときに、急に誰かがトイレを流したりするとね……」
「嘆きのマートル」がトイレの中身と一いっ緒しょにパイプを通って湖に流されていく様子を想像しないようにしながら、ハリーが言った。
「そうだなあ、人の声を持っている生物がいるかい? 待てよ――」ハリーは絵の中で寝息を立てている人魚マーメイドに目を留めた。「マートル、湖には水中人マーピープルがいるんだろう?」
「ウゥゥ、やるじゃない」マートルの分厚いメガネがキラキラした。「ディゴリーはもっと長くかかったわ! しかも、あの女が」――マートルは憂ゆう鬱うつな顔に大嫌いだという表情を浮かべて、人魚のほうをぐいと顎あごでしゃくった――「起きてるときだったんだ。クスクス笑ったり、見せびらかしたり、鰭ひれをパタパタ振ったりしてさ……」
「そうなんだね?」ハリーは興こう奮ふんした。「第二の課題は、湖に入って水中人を見つけて、そして……そして……」
ハリーは急に自分が何を言っているのかに気づいた。すると、誰かが突然ハリーの胃袋の栓せんを引き抜いたかのように、興こう奮ふんが一度に流れ去った。ハリーは水泳が得意ではなかった。あまり練習したことがなかったのだ。ダドリーは小さいときに水泳訓練を受けたが、ペチュニアおばさんもバーノンおじさんも、ハリーには訓練を受けさせようとしなかった。間違いなく、ハリーがいつか溺おぼれればよいと願っていたのだろう。浴よく槽そうプールを二、三回往復するくらいならいい。しかし、あの湖はとても大きいし、とても深い……それに、水中人はきっと湖底に棲すんでいるはずだ……。