フィルチの目は、ハリーの体を通過して、未練たっぷりに階段を見上げた。ピーブズを追い詰めるチャンスを逃のがすのは無念だ、という顔だ。
「行け」とハリーは心の中で叫んだ。「スネイプと一緒に行け……行くんだ……」
ミセス・ノリスがフィルチの足の間からじーっと見ている……ハリーの匂においを嗅かぎつけたに違いない、とハリーははっきりそう思った……どうしてあんなにいっぱい、香かおりつきの泡を風呂に入れてしまったんだろう?
「お言葉ですが、教授」フィルチは哀あい願がんするように言った。「校長はこんどこそわたくしの言い分をお聞きくださるはずです。ピーブズが生徒のものを盗んでいるのです。こんどこそ、あいつをこの城から永久に追い出すまたとないチャンスになるかもしれません――」
「フィルチ、あんな下劣なポルターガイストなどどうでもよい。問題は我輩の研究室だ――」
コツッ、コツッ、コツッ。
スネイプはぱったり話をやめた。スネイプもフィルチも、階段の下を見下ろした。二人の頭の間のわずかな隙すき間まから、マッド‐アイ・ムーディが足を引きずりながら階段下に姿を現すのがハリーの目に入った。寝ね巻まきの上に古ぼけた旅行マントを羽は織おり、いつものようにステッキにすがっている。
「パジャマパーティかね?」ムーディは上を見上げて唸うなった。
「スネイプ教授もわたしも、物音を聞きつけたのです。ムーディ教授」フィルチがすぐさま答えた。「ポルターガイストのピーブズめが、いつものように物を放り投げていて――それに、スネイプ教きょう授じゅは誰かが教授の研究室に押し入ったのを発見され――」
「黙だまれ!」スネイプが歯を食いしばったままフィルチに言った。
ムーディは階段下へと一歩近づいた。ムーディの「魔法の目」がスネイプに移り、それから、紛まぎれもなく、ハリーに注がれた。