「ベッドに戻れ、スネイプ」ムーディが笑い声を上げた。
「君にどこへ行けと命令される覚えはない」スネイプは歯は噛がみしたままそう言うと、自分に腹を立てるかのように右手を離した。「我わが輩はいにも、君と同じに、暗くなってから校内を歩き回る権利がある!」
「勝手に歩き回るがよい」ムーディの声はたっぷりと脅おどしが効いていた。「そのうち、どこか暗い廊ろう下かで君と出会うのを楽しみにしている……ところで、何か落し物だぞ……」
ムーディは、ハリーより六段下の階段に転がったままの「忍しのびの地ち図ず」を指していた。ハリーは恐きょう怖ふでグサリと刺さし貫かれたような気がした。スネイプとフィルチが振り返って地図を見た。ハリーは慎重しんちょうさをかなぐり捨て、ムーディの注意を引こうと、透とう明めいマントの下で両腕を上げ、懸けん命めいに振りながら、声を出さずに言った。
「それ僕のです! 僕の!」
スネイプが地図に手を伸ばした。わかったぞ、という恐ろしい表情を浮かべている――。
「アクシオ! 羊よう皮ひ紙しよ来い!」
羊皮紙は宙を飛び、スネイプが伸ばした指の間を掻かいくぐり、階段を舞い下り、ムーディの手に収まった。
「わしの勘かん違ちがいだ」ムーディが静かに言った。「わしの物だった――前に落としたものらしい――」
しかし、スネイプの目は、フィルチの腕にある卵から、ムーディの手にある地図へと矢のように走った。ハリーにはわかった。スネイプは、スネイプにだけわかるやり方で二つを結びつけているのだ……。
「ポッターだ」スネイプが低い声で言った。
「何かね?」地図をポケットにしまい込みながら、ムーディが静かに言った。
「ポッターだ!」スネイプが歯ぎしりした。そしてくるりと振り返り、突然ハリーが見えたかのように、ハリーがいる場所をハッタと睨にらんだ。「その卵はポッターの物だ。羊皮紙もポッターのだ。以前に見たことがあるから我輩にはわかる! ポッターがいるぞ! ポッターだ。透とう明めいマントだ!」