スネイプは目が見えないかのように両腕を突き出し、階段を上りはじめた。スネイプの特大の鼻の穴が、ハリーを嗅かぎ出そうとさらに大きくなっている――足を挟はさまれたままハリーは後ろにのけ反って、スネイプの指先に触ふれまいとした。しかし、もはや時間の問題だ――。
「そこには何もないぞ、スネイプ!」ムーディが叫さけんだ。「しかし、校長には謹つつしんで伝えておこう。君の考えが、いかにすばやくハリー・ポッターに飛ひ躍やくしたかを!」
「どういう意味だ?」スネイプがムーディを振り返って唸うなった。スネイプが伸ばした両手は、ハリーの胸元からほんの数センチのところにあった。
「ダンブルドアは、誰がハリーに恨うらみを持っているのか、たいへん興味があるという意味だ!」ムーディが足を引きずりながら、さらに階段下に近づいた。「わしも興味があるぞ、スネイプ……大いにな……」
松たい明まつがムーディの傷だらけの顔をチラチラと照らし、傷きず痕あとも、大きく削そぎ取られた鼻も、いっそう際立って見えた。
スネイプはムーディを見下ろした。ハリーからはスネイプの表情が見えなくなった。しばらくの間、誰も動かず、何も言わなかった。それから、スネイプがゆっくりと手を下ろした。
「我わが輩はいはただ」スネイプが感情を抑え込んだ冷静な声で言った。「ポッターがまた夜遅く徘はい徊かいしているなら……それは、ポッターの嘆なげかわしい習慣だ……やめさせなければならんと思っただけだ。あの子の、あの子自身の――安全のためにだ」
「なるほど」ムーディが低い声で言った。「ポッターのためを思ったと、そういうわけだな?」
一瞬いっしゅん、間まが空あいた。スネイプとムーディはまだ睨にらみ合ったままだ。ミセス・ノリスが大きくニャアと鳴いた。フィルチの足あし下もとからじーっと目を凝こらし、風呂上がりの泡の匂においの源を嗅かぎ出そうとしているようだ。
「我輩はベッドに戻ろう」スネイプはそれだけを言った。
「今晩君が考えた中では、最高の考えだな」ムーディが言った。「さあ、フィルチ、その卵をわしに渡せ――」
「ダメです!」卵がまるで初めて授さずかった自分の息子ででもあるかのように、フィルチは離さなかった。「ムーディ教きょう授じゅ、これはピーブズの窃せっ盗とうの証しょう拠こです!」
「その卵は、ピーブズに盗まれた代表選手のものだ」ムーディが言った。「さあ、渡すのだ」