スネイプはすばやく階段を下り、無言でムーディの脇わきを通り過ぎた。フィルチはミセス・ノリスをチュッチュッと呼んだ。ミセス・ノリスはほんのしばらく、ハリーのほうをじっと見ていたが、踵きびすを返して主人のあとに従った。ハリーはまだ動どう悸きが治おさまらないまま、スネイプが廊ろう下かを立ち去る音を聞き、フィルチが卵をムーディに渡して姿を消すのを見ていた。フィルチがミセス・ノリスにボソボソと話しかけていた。
「いいんだよ、チビちゃん……朝になったらダンブルドアに会いにいこう……ピーブズが何をやらかしたか、報告しよう……」
扉とびらがバタンと閉まった。残されたハリーは、ムーディを見下ろしていた。ムーディはステッキをいちばん下の階段に置き、体を引きずるように階段を上り、ハリーのほうにやってきた。一段置きに、コツッという鈍にぶい音がした。
「危なかったな、ポッター」ムーディが呟つぶやくように言った。
「ええ……僕――あの……ありがとうございました」ハリーが力なく言った。
「これは何かね?」ムーディがポケットから「忍しのびの地ち図ず」を引っ張り出して広げた。
「ホグワーツの地図です」ムーディが早く階段から引っ張り出してくれないかと思いながら、ハリーは答えた。足が強く痛み出していた。
「たまげた」地図を見つめて、ムーディが呟つぶやいた。「魔法の目」がぐるぐる回っている。
「これは……これは、ポッター、大した地図だ!」
「ええ、この地図……とても便利です」ハリーは痛みで涙が出てきた。「あの――ムーディ先生。助けていただけないでしょうか――?」
「なに? おう! ふむ……どうれ……」ムーディはハリーの腕を抱えて引っ張った。騙だまし階段から足が抜け、ハリーは一段上に戻った。
ムーディはまだ地図を眺ながめていた。