ホイッスルが冷たく静かな空気に鋭するどく鳴り響ひびいた。スタンドは拍手と歓かん声せいでどよめいた。ほかの代表選手が何をしているかなど見もせずに、ハリーは靴くつと靴下を脱ぬぎ、鰓えら昆こん布ぶを一つかみポケットから取り出し、口に押し込み、湖に入っていった。
水は冷たく、氷水というより、両足の肌はだをジリジリ焼く火のように感じられた。だんだん深みへと歩いていくと、水を吸ったローブの重みで、ハリーは下へ下へと引っ張られた。もう水は膝ひざまで来た。足はどんどん感覚がなくなり、泥でい砂さやヌルヌルする平たい石で滑すべった。ハリーは鰓昆布をできるだけ急いで、しっかり噛かんだ。ヌルッとしたゴムのような嫌いやな感触かんしょくで、蛸たこの足のようだった。凍こおるような水が腰の高さに来たとき、ハリーは立ち止まって、鰓昆布を飲み込み、何かが起こるのを待った。
観衆の笑い声が聞こえた。何の魔力を表す気配もなく湖の中をただ歩いている姿は、きっとばかみたいに見えるのだろうと、ハリーにはわかっていた。まだ濡ぬれていない皮ひ膚ふは鳥肌が立ち、氷のような水に半身を浸ひたし、情け容よう赦しゃない風に髪かみを逆立て、ハリーは激はげしく震ふるえ出した。ハリーはスタンドを見ないようにした。笑い声がますます大きくなった。スリザリン生が口笛を吹いたり、野や次じったりしている……。
そのとき、まったく突とつ然、ハリーは、見えない枕を口と鼻に押しつけられたような気がした。息をしようとすると、頭がくらくらする。肺が空からっぽだ。そして、急に首の両脇りょうわきに刺さすような痛みを感じた――。
ハリーは両手で喉のどを押さえた。すると、耳のすぐ下の大きな裂さけ目に手が触ふれた。冷たい空気の中で、パクパクしている……鰓えらがある。何のためらいもなくハリーは、これしかない、という行動をとった――水に飛び込んだのだ。