淡あわい緑色の水草が、目の届くかぎり先まで広がっている。一メートル弱の高さに伸び、草ボウボウの牧草地のようだった。薄うす暗くらがりの中を何か形のあるものを見つけようと、ハリーは瞬まばたきもせずに前方を見つめ続けた……すると、突とつ如じょ、何かがハリーの踝くるぶしをつかんだ。
ハリーは体を捻ひねって足元を見た。グリンデロー、水すい魔まだ。小さな、角のある魔物で、水草の中から顔を出し、長い指でハリーの足をがっちりつかみ、尖とがった歯をむき出している――ハリーは水みず掻かきのついた手を急いでローブに突っ込み、杖つえを探った――やっと杖をつかんだときには、水魔があと二匹、水草の中から現れてハリーのローブをギュッと握り、ハリーを引きずり込もうとしていた。
「レラシオ! 放はなせ!」ハリーは叫さけんだ。ただ、音は出てこない……大きな泡あぶくが一つ口から出てきた。杖からは、水すい魔ま目がけて火花が飛ぶかわりに、熱湯のようなものを噴ふん射しゃして水魔を連打した。水魔に当たると、緑の皮ひ膚ふに赤い斑はん点てんができた。ハリーは水魔に握られていた足を引っ張って振り解き、ときどき肩越しに熱湯を当てずっぽうに噴射しながら、できるだけ速く泳いだ。何度か水魔がまた足をつかむのを感じたが、ハリーは思い切り蹴け飛とばした。角つののある頭が触ふれたような気がして振り返ると、気絶した水魔が白目をむいて流されていった。仲間の水魔はハリーに向かってこぶしを振り上げながら、再び水草の中に潜っていった。
ハリーは少しスピードを落とし、杖をローブに滑すべり込ませ、周りを見回して再び耳を澄すませた。水の中で一回転すると、静寂せいじゃくが前にも増して強く鼓こ膜まくを押した。いまはもう、湖のずいぶん深いところにいるに違いない。しかし、揺ゆれる水草以外に動くものは何もなかった。