「うまくいってる?」
ハリーは心臓が止まるかと思った。くるりと振り返ると、「嘆なげきのマートル」だった。ハリーの目の前に、ぼんやりと浮かび、分厚い半はん透とう明めいのメガネの向こうからハリーを見つめている。
「マートル!」ハリーは叫さけぼうとした――しかし、またしても、口から出たのは大きな泡あぶく一つだった。「嘆きのマートル」は声を出してクスクス笑った。「あっちを探してみなさいよ!」マートルは指差しながら言った。「わたしは一いっ緒しょに行かないわ……あの連中はあんまり好きじゃないんだ。わたしがあんまり近づくと、いっつも追いかけてくるのよね……」
ハリーは感かん謝しゃを表すために親指を上げる仕し種ぐさをして、再び泳ぎ出した。水草にひそむ水魔にまた捕まったりしないよう、こんどは水草より少し高いところを泳ぐように気をつけた。
かれこれ二十分も泳ぎ続けたろうか。ハリーは、黒い泥でい地ちが広々と続く場所を通り過ぎていた。水を掻かくたびに黒い泥が巻き上がり、あたりが濁にごった。そして、ついに、あの耳について離れない、水中人歌が聞こえてきた。
探す時間は 一時間
取り返すべし 大切なもの……
ハリーは急いだ。まもなく、前方の泥で濁った水の中に、大きな岩が見えてきた。岩には水中人の絵が描いてあった。槍やりを手に、巨大イカのようなものを追っている。ハリーは水中人歌を追って、岩を通り過ぎた。
……時間は半分 ぐずぐずするな
求めるものが 朽くち果はてぬよう……
藻もに覆おおわれた粗あら削けずりの石の住居の連なりが、薄うす暗くらがりの中から突然姿を現した。方ほう々ぼうの暗い窓から覗のぞく顔、顔……監かん督とく生せいの浴室に描かれていた人魚の絵とは似ても似つかぬ顔が見えた。
水中人の肌はだは灰色味を帯び、ボウボウとした長い暗あん緑りょく色しょくの髪かみをしていた。目は黄色く、あちこち欠けた歯も黄色だった。首には丸石をつなげたロープを巻きつけていた。ハリーが泳いでいくのを、みんな横目で見送った。一人、二人は、力強い尾お鰭びれで水を打ち、槍やりを手に洞どう窟くつから出てきて、ハリーをもっとよく見ようとした。