ハリーは鰭足で強く蹴った。しかし、足はもう普通の足だった……水が口に、そして肺にどっと流れ込んできた……目が眩くらむ。でも、光と空気はほんの三メートル上にある……たどり着くんだ……たどり着かなければ……。ハリーは両足を思い切り強く、速くばたつかせて水を蹴った。筋肉が抵てい抗こうの悲ひ鳴めいを上げているような感じがした。頭の中が水みず浸びたしだ。息ができない。酸素がほしい。やめることはできない。やめてたまるか――。
そのとき、頭が水面を突き破るのを感じた。すばらしい、冷たい、澄すんだ空気が、ハリーの濡ぬれた顔をチクチクと刺さすようだった。ハリーは思いっきり空気を吸い込んだ。これまで一度もちゃんと息を吸ったことがなかったような気がした。そして、喘あえぎ喘ぎ、ハリーはロンと少女を引き上げた。ハリーの周りをぐるりと囲んで、ボウボウとした緑の髪かみの頭が、いっせいに水面に現れた。みんなハリーに笑いかけている。
スタンドの観衆が大騒ぎしていた。叫さけんだり、悲ひ鳴めいを上げたり、総立ちになっているようだ。みんな、ロンと少女が死んだと思っているのだろうと、ハリーは思った。みんな間違っている……二人とも目を開けた。少女は混乱して怖こわがっていたが、ロンはピューッと水を吐はき出し、明るい陽射しに目をパチクリさせ、ハリーのほうを見て言った。
「ビショビショだな、こりゃ」たったそれだけだ。それからフラーの妹に目を止め、ロンが言った。「何のためにこの子を連れてきたんだい?」
「フラーが現れなかったんだ。僕、この子を残しておけなかった」ハリーがゼイゼイ言った。
「ハリー、ドジだな」ロンが言った。「あの歌を真まに受けたのか? ダンブルドアが僕たちを溺おぼれさせるわけないだろ!」
「だけど、歌が――」
「制限時間内に君が間違いなく戻れるように歌ってただけなんだ!」ロンが言った。「英雄気取りで、湖の底で時間をむだにしたんじゃないだろうな」
ハリーは自分のばかさ加減とロンの言い方の両方に嫌いや気けがさした。ロンはそれでいいだろう。君はずっと眠っていたんだから。やすやすと人を殺あやめそうな、槍やりを持った水中人に取り囲まれて、湖の底でどんなに不気味な思いをしたか、君は知らずにすんだのだから。