カルカロフは二時限続きの授業の間、ずっとスネイプの机の後ろでうろうろしていた。授業が終わったとき、スネイプが逃げるのを、どうあっても阻そ止しする構えだ。カルカロフがいったい何を言いたいのか聞きたくて、終業ベルが鳴る二分前、ハリーはわざとアルマジロの胆汁たんじゅうの瓶びんをひっくり返した。これで、大おお鍋なべの陰にしゃがみ込む口実ができた。ほかの生徒がガヤガヤとドアに向かっているとき、ハリーは床を拭ふいていた。
「何がそんなに緊急きんきゅうなんだ?」スネイプがひそひそ声でカルカロフに言うのが聞こえた。
「これだ」カルカロフが答えた。
ハリーは大鍋の端はしから覗のぞき見た。カルカロフがローブの左袖ひだりそでをまくり上げ、腕の内側にある何かをスネイプに見せているのが見えた。
「どうだ?」カルカロフは、依い然ぜんとして、懸けん命めいに唇くちびるを動かさないようにしていた。「見たか? こんなにはっきりしたのは初めてだ。あれ以来――」
「しまえ!」スネイプが唸うなった。暗い目が教室全体をさっと見た。
「君も気づいているはずだ――」カルカロフの声が興こう奮ふんしている。
「あとで話そう、カルカロフ」スネイプが吐はき捨てるように言った。
「ポッター! 何をしているんだ?」
「アルマジロの胆汁を拭き取っています、先生」
ハリーは何事もなかったかのように、立ち上がって、汚れた雑巾をスネイプに見せた。
カルカロフは踵きびすを返し、大おお股またで地ち下か牢ろうを出ていった。心配と怒りが入り交まじったような表情だった。怒り心しん頭とうのスネイプと二人きりになるのは願い下げだ。ハリーは教科書と材料をカバンに投げ入れ、猛もうスピードでその場を離れた。たったいま目もく撃げきしたことを、ロンとハーマイオニーに話さなければ。