「いや、そういうときにこそ、最良の面を発はっ揮きする者もいれば、最悪の面が出る者もある。クラウチの主義主張は最初はよいものだったのだろう――わたしにはわからないが。あいつは魔法省でたちまち頭角を現し、ヴォルデモートに従うものにきわめて厳きびしい措そ置ちを取りはじめた。『闇やみ祓ばらい』たちに新しい権力が与えられた――たとえば、捕まえるのでなく、殺してもいいという権力だ。裁判なしに『吸きゅう魂こん鬼き』の手に渡されたのは、わたしだけではない。クラウチは、暴力には暴力をもって立ち向かい、疑わしい者に対して、『許ゆるされざる呪じゅ文もん』を使用することを許可した。あいつは、多くの闇の陣営の輩やからと同じように、冷れい酷こく無情になってしまったと言える。たしかに、あいつを支持する者もいた――あいつのやり方が正しいと思う者もたくさんいたし、多くの魔法使いたちが、あいつを魔法大臣にせよと叫さけんでいた。ヴォルデモートがいなくなったとき、クラウチがその最高の職に就つくのは時間の問題だと思われた。しかし、そのとき不幸な事件があった……」シリウスがニヤリと笑った。
「クラウチの息子が『死し喰くい人びと』の一味と一いっ緒しょに捕まった。この一味は、言葉巧たくみにアズカバンを逃のがれた者たちで、ヴォルデモートを探し出して権力の座に復帰させようとしていた」
「クラウチの息子が捕まった?」ハーマイオニーが息を呑のんだ。
「そう」シリウスは鳥の骨をバックビークに投げ与え、自分は飛びつくようにパンの横に座り込み、パンを半分に引きちぎった。
「あのバーティにとっては、相当きついショックだっただろうね。もう少し家にいて、家族と一いっ緒しょに過ごすべきだった。そうだろう? たまには早く仕事を切り上げて帰るべきだった……自分の息子をよく知るべきだったのだ」
シリウスは大きなパンの塊かたまりを、ガツガツ食らいはじめた。