「それじゃ、息子はまだアズカバンにいるの?」ハリーが聞いた。
「いや」シリウスがゆっくり答えた。「いや。あそこにはもういない。連れて来られてから約一年後に死んだ」
「死んだ?」
「あの子だけじゃない」シリウスが苦にが々にがしげに答えた。
「たいがい気が狂う。最後には何も食べなくなる者が多い。生きる意志を失うのだ。死が近づくと、間違いなくそれがわかる。『吸きゅう魂こん鬼き』がそれを嗅かぎつけて興こう奮ふんするからだ。あの子は収監しゅうかんされたときから病気のようだった。クラウチは魔ま法ほう省しょうの重要人物だから、奥おく方がたと一いっ緒しょに息子の死しに際ぎわに面会を許された。それが、わたしがバーティ・クラウチに会った最後だった。奥方を半分抱きかかえるようにしてわたしの独どく房ぼうの前を通り過ぎていった。奥方はどうやらそれからまもなく死んでしまったらしい。嘆なげき悲しんで。息子と同じように、憔悴しょうすいしていったらしい。クラウチは息子の遺い体たいを引き取りにこなかった。『吸魂鬼』が監かん獄ごくの外に埋まい葬そうした。わたしはそれを目もく撃げきしている」
シリウスは口元まで持っていったパンを脇わきに放り出し、代わりにかぼちゃジュースの瓶びんを取り上げて飲み干した。
「そして、あのクラウチは、すべてをやり遂げたと思ったときに、すべてを失った」
シリウスは手の甲で口を拭ぬぐいながら話し続けた。
「一時は、魔法大臣と目されたヒーローだった……次の瞬間しゅんかん、息子は死に、奥方も亡くなり、家名は汚けがされた。そして、わたしがアズカバンを出てから聞いたのだが、人気も大きく落ち込んだ。あの子が亡くなると、みんながあの子に少し同情しはじめた。れっきとした家いえ柄がらの、立派な若者が、なぜそこまで大きく道を誤ったのかと、人々は疑問に思いはじめた。結論は、父親が息子をかまってやらなかったからだ、ということになった。そこで、コーネリウス・ファッジが最高の地位に就つき、クラウチは『国こく際さい魔ま法ほう協きょう力りょく部ぶ』などという傍流ぼうりゅうに押しやられた」