ウィンキーの瞼まぶたが垂たれ下がり、突然丸椅子からずり落ちて、暖だん炉ろの前で大いびきをかきはじめた。空からになったバタービールの瓶びんが、石畳いしだたみの床を転がった。
五、六人のしもべ妖よう精せいが、愛あい想そが尽きたという顔で、急いで駆かけ寄った。一人が瓶を拾い、他の妖精がウィンキーを大きなチェックのテーブルクロスで覆おおい、端はしをきれいにたくし込んで、ウィンキーの姿が見えないようにした。
「お見苦しいところをお見せして、あたくしたちは申し訳わけなく思っていらっしゃいます!」
すぐそばにいた一人の妖精が、頭を振り、恥ずかしそうな顔でキーキー言った。
「お嬢じょうさま、お坊っちゃま方。ウィンキーを見て、あたくしたちみんながそうだと思わないようにお願いなさいます!」
「ウィンキーは不幸なのよ!」ハーマイオニーが憤ふん然ぜんとして言った。「隠したりせずに、どうして元気づけてあげないの?」
「お言葉を返しますが、お嬢さま」同じしもべ妖精が、また深々とお辞じ儀ぎしながら言った。「でも屋や敷しきしもべ妖精は、やるべき仕事があり、お仕えするご主人がいるときに、不幸になる権利がありません」
「なんてバカげてるの!」ハーマイオニーが怒った。「みんな、よく聞いて! みんなは、魔法使いとまったく同じように、不幸になる権利があるの! 賃ちん金ぎんや休きゅう暇か、ちゃんとした服をもらう権利があるの。何もかも言われたとおりにしている必要はないわ――ドビーをご覧なさい!」
「お嬢さま、どうぞ、ドビーのことは別にしてくださいませ」
ドビーは怖こわくなったようにモゴモゴ言った。厨房ちゅうぼう中のしもべ妖精の顔から、楽しそうな笑顔が消えていた。急にみんなが、ハーマイオニーを狂った危険人物を見るような目で見ていた。
「食べ物を余分に持っていらっしゃいました!」ハリーの肘ひじのところで、妖精がキーキー言った。そして、大きなハム、ケーキ一ダース、果物少々をハリーの腕に押しつけた。
「さようなら!」屋敷しもべ妖精たちがハリー、ロン、ハーマイオニーの周りに群がって、三人を厨房から追い出しはじめた。たくさんの小さな手が三人の腰を押した。
「ソックス、ありがとうございました。ハリー・ポッター!」ウィンキーを包くるんで盛り上がっているテーブルクロスの脇わきに立って、ドビーが情けなさそうな声で言った。