「何だ?」クラムが言った。
ハリーは頭を横に振り、動きの見えた場所をじっと見た。そしてローブに手を滑すべり込ませ、杖つえをつかんだ。
大きな樫かしの木の陰から、突然男が一人、よろよろと現れた。一瞬いっしゅん、ハリーには誰だかわからなかった……そして、気づいた。クラウチ氏だ。
クラウチ氏は何日も旅をしてきたように見えた。ローブの膝ひざが破れ、血が滲にじんでいる。顔は傷きずだらけで、無ぶ精しょう髭ひげが伸び、疲れきって灰色だ。きっちりと分けてあった髪かみも、口くち髭ひげも、ボサボサに伸び、汚れ放題だ。しかし、その奇妙な格かっ好こうも、クラウチ氏の行動の奇妙さに比べれば何でもない。ブツブツ言いながら、身振り手振りで、クラウチ氏は自分にしか見えない誰かと話しているようだった。ダーズリーたちと一いっ緒しょに買い物に行ったときに一度見たことがある浮ふ浪ろう者しゃを、ハリーはまざまざと思い出した。その浮浪者も、空に向かって喚わめき散らしていた。ペチュニアおばさんはダドリーの手をつかんで、道の反対側に引っ張っていき、浮浪者を避さけようとした。そのあと、バーノンおじさんは、自分なら物もの乞ごいや浮浪者みたいなやつらをどう始末するか、家族全員に長々と説教したものだ。
「審しん査さ員いんの一人でヴぁないのか?」クラムはクラウチ氏をじっと見た。「あの人ヴぁ、こっちの魔ま法ほう省しょうの人だろう?」
ハリーは頷うなずいた。一瞬迷ったが、ハリーはそれから、ゆっくりとクラウチ氏に近づいた。クラウチ氏はハリーには目もくれず、近くの木に話し続けている。
「……それが終わったら、ウェーザビー、ダンブルドアにふくろう便を送って、試合に出席するダームストラングの生徒の数を確認してくれ。カルカロフが、たったいま、十二人だと言ってきたところだが……」
「クラウチさん?」ハリーは慎重しんちょうに声をかけた。
「……それから、マダム・マクシームにもふくろう便を送るのだ。カルカロフが一ダースという切りのいい数にしたと知ったら、マダムのほうも生徒の数を増やしたいと言うかもしれない……そうしてくれ、ウェーザビー、頼んだぞ。頼ん……」
クラウチ氏の目が飛び出ていた。じっと木を見つめて立ったまま、声も出さず口だけモゴモゴ動かして木に話しかけている。それからよろよろと脇わきに逸それ、崩くずれ落ちるように膝ひざをついた。