「ハリー! ハリー!」
ハリーは目を開けた。ハリーは、両手で顔を覆おおい、トレローニー先生の教室の床に倒れていた。傷きず痕あとがまだひどく痛み、目が潤うるんでいる。痛みは夢ではなかった。クラス全員がハリーを囲んで立っていた。ロンはすぐそばに膝ひざをつき、恐怖の色を浮かべていた。
「大丈夫か?」ロンが聞いた。
「大丈夫なはずありませんわ!」トレローニー先生は興こう奮ふんしきっていた。大きな目がハリーに近づき、じっと覗のぞき込んだ。「ポッター、どうなさったの? 不吉な予よ兆ちょう? 亡ぼう霊れい? 何が見えましたの?」
「なんにも」ハリーは嘘うそをついて、身を起こした。自分が震ふるえているのがわかった。周りを見回し、自分の後ろの暗がりを振り返らずにはいられなかった。ヴォルデモートの声があれほど近々と聞こえていた……。
「あなたは自分の傷きずをしっかり押さえていました!」トレローニー先生が言った。「傷を押さえつけて、床を転げ回ったのですよ! さあ、ポッター、こういうことには、あたくし、経験がありましてよ!」
ハリーは先生を見上げた。
「医い務む室しつに行ったほうがいいと思います」ハリーが言った。「ひどい頭痛がします」
「まあ! あなたは間違いなく、あたくしの部屋の、透とう視し振しん動どうの強さに刺激を受けたのですわ!」トレローニー先生が言った。「いまここを出ていけば、せっかくの機会を失いますわよ。これまでに見たことのないほどの透視――」
「頭痛の治療薬以外には何も見たくありません」ハリーが言った。
ハリーが立ち上がった。クラス中が、気を挫くじかれたように後あと退ずさりした。
「じゃ、あとでね」
ロンにそう囁ささやき、ハリーはカバンを取り、トレローニー先生には目もくれず、撥はね戸どへと向かった。先生はせっかくのご馳ち走そうを食べ損そこねたような、欲求不満の顔をしていた。