教室から伸びる梯はし子ごのいちばん下まで降りたハリーは、しかし、医務室へは行かなかった。行くつもりははじめからなかった。また傷きず痕あとが痛んだらどうすべきか、シリウスが教えてくれていた。ハリーはそれに従うつもりだった。まっすぐにダンブルドアの校長室に行くのだ。夢に見たことを考えながら、ハリーは廊ろう下かをただ一いっ心しんに歩いた……プリベット通りで目が覚めたときの夢と同じように、こんどの夢も生なま々なましかった……ハリーは頭の中で夢の細かいところまで想おもい返し、忘れないようにした……ヴォルデモートがワームテールのしくじりを責せめているのを聞いた……しかし、ワシミミズクはいい知らせを持っていったのだ。へまは繕つくろわれ、誰かが死んだ……それで、ワームテールは蛇へびの餌え食じきにならずにすんだ……その代わり、僕が蛇の餌食になる……。
ダンブルドアの部屋への入口を守るガーゴイルの石像を、ハリーはうっかり通り過ぎてしまった。ハッとして、あたりを見回し、自分が何をしてしまったかに気づいて、ハリーは後戻りした。石像の前に立つと、ハリーは合言葉を知らなかったことを思い出した。
「レモン・キャンディー?」だめかな、と思いながら言ってみた。
ガーゴイルはピクリともしない。
「よーし」ハリーは石像を睨にらんだ。「梨なし飴あめ。えーと、杖つえ型がた甘かん草ぞう飴あめ。フィフィフィズビー。どんどん膨ふくらむドルーブルの風船ガム。バーティー・ボッツの百ひゃく味みビーンズ……あ、違ったかな。ダンブルドアはこれ、嫌いだったっけ? ……えーい、開いてくれよ。だめ?」
ハリーは怒った。
「どうしてもダンブルドアに会わなきゃならないんだ。緊急なんだ!」
ガーゴイルは不動の姿勢だ。
ハリーは石像を蹴け飛とばした。足の親指が死ぬほど痛かっただけだった。
「蛙かえるチョコレート!」ハリーは片足だけで立って、腹を立てながら叫さけんだ。
「砂さ糖とう羽は根ねペン! ゴキブリゴソゴソ豆まめ板いた!」
ガーゴイルに命が吹き込まれ、脇わきに飛び退のいた。ハリーは目をパチクリした。
「ゴキブリゴソゴソ豆板?」ハリーは驚いた。「冗談じょうだんのつもりだったのに……」