ハリーは壁かべの隙すき間まを急いで通り抜け、石の螺ら旋せん階かい段だんに足をかけた。すると階段はゆっくり上に動きはじめ、ハリーの背はい後ごで壁が閉まった。動く螺旋階段は、ハリーを磨き上げられた樫かしの扉とびらの前まで連れていった。扉には真鍮しんちゅうのノッカーがついていて、それを扉に打ちつけて客の来訪を知らせるようになっていた。
部屋の中から人声が聞こえた。動く螺旋階段から降りたハリーは、ちょっと躊躇ちゅうちょしながら人声を聞いた。
「ダンブルドア、私にはどうもつながりがわからんですよ。まったくわかりませんな!」
魔ま法ほう大だい臣じん、コーネリウス・ファッジの声だ。
「ルードが言うには、バーサの場合は行方不明になっても、まったくおかしくはない。たしかに、いまごろはもうとっくにバーサを発見しているはずではあったが、それにしても、何ら怪しげなことが起きているという証しょう拠こはないですぞ、ダンブルドア。まったくない。バーサが消えたことと、バーティ・クラウチの失しっ踪そうを結びつける証拠となると、なおさらない!」
「それでは、大臣。バーティ・クラウチに何が起こったとお考えかな?」ムーディの唸うなり声が聞こえた。
「アラスター、可能性は二つある」ファッジが言った。「クラウチはついに正気を失ったか――大いにありうることだ。あなた方にもご同意いただけるとは思うが、クラウチのこれまでの経歴を考えれば――心しん身しん喪そう失しつで、どこかをさ迷っている――」
「もしそれなれば、ずいぶんと短い時間に、遠くまでさ迷い出たものじゃ」ダンブルドアが冷静に言った。
「もしくは――いや……」ファッジは困こん惑わくしたような声を出した。「いや、クラウチが見つかった現場を見るまでは、判断を控ひかえよう。しかし、ボーバトンの馬車を過ぎたあたりだとおっしゃいましたかな? ダンブルドア、あの女が何者なのか、ご存ぞん知じか?」
「非常に有能な校長だと考えておるよ――それにダンスがすばらしくお上手じゃ」ダンブルドアが静かに言った。
「ダンブルドア、よせ!」ファッジが怒った。「あなたは、ハグリッドのことがあるので、偏へん見けんからあの女に甘いのではないのか? 連中は全部が全部無害ではない――もっとも、あの異常な怪物好きのハグリッドを無害と言うのならの話だが――」
「わしはハグリッドと同じように、マダム・マクシームをも疑っておらんよ」ダンブルドアは依い然ぜんとして平静だった。「コーネリウス、偏見があるのはあなたのほうかもしれんのう」
「議論はもうやめぬか?」ムーディが唸うなった。
「そう、そう。それでは外に行こう」コーネリウスのイライラした声が聞こえた。
「いや、そうではないのだ」ムーディが言った。「ポッターが話があるらしいぞ、ダンブルドア。扉とびらの外におる」