しかし、ハリーは石の底に頭を打ちつけはしなかった。何か氷のように冷たい黒いものの中を落ちていった。暗い渦うずの中に吸い込まれるように――。
そして、突然、ハリーは水盆の中の部屋の隅で、ベンチに座っていた。他のベンチよりいちだんと高い場所だ。たったいま覗き込んでいた丸窓が見えるはずだと、ハリーは高い石の天井を見上げた。しかし、そこには暗い固い石があるだけだった。
息を激はげしく弾はずませながらハリーは周りを見回した。部屋にいる魔法使いたちは(少なくとも二百人はいる)、誰もハリーを見ていない。十四歳の男の子が、たったいま天井からみんなのただ中に落ちてきたことなど誰一人気づいていないようだ。同じベンチの隣となりに座っている魔法使いを見たハリーは、驚きのあまり大声を上げ、その叫さけび声がしんとした部屋に響ひびき渡った。
ハリーはアルバス・ダンブルドアの隣に座っていた。
「校長先生!」ハリーは喉のどを締めつけられたような声で囁ささやいた。「すみません――僕、そんなつもりじゃなかったんです――戸と棚だなの中にあった水盆を見ていただけなんです――僕――ここはどこですか?」
しかし、ダンブルドアは身動きもせず、話もしない。ハリーをまったく無む視ししている。ベンチに座っているほかの魔法使いたちと同じに、ダンブルドアも部屋のいちばん隅のほうを見つめている。そこにドアがあった。
ハリーは、呆ぼう然ぜんとしてダンブルドアを見つめ、黙だまりこくって何かを待っている大勢の魔法使いたちを見つめ、またダンブルドアを見つめた。そして、はっと気づいた……。
前に一度、こんな場面に出くわしたことがあった。誰もハリーを見てもいないし聞いてもいなかった。あのときは、呪のろいのかかった日記帳の一ページの中に落ち込んだのだ。誰かの記憶のただ中に……そして、ハリーの考えがそう間違っていなければ、また同じようなことが起こったのだ……。